2014年03月29日

中枢神経に効く薬(3)「アルツハイマー治療薬」

●アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症(アルツハイマーがたにんちしょう、Alzheimer's disease、AD)は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。

日本では、認知症のうちでも脳血管性認知症、レビー小体病と並んで最も多いタイプである。

アルツハイマー病(AD)には、以下の2つのタイプがある。

●家族性アルツハイマー病(Familial AD、FAD)

完全な常染色体優性遺伝を示し、遺伝性アルツハイマー病ともよばれる。



●アルツハイマー型認知症(dementia of Alzheimer type、DAT)

アルツハイマー病の中でほとんどを占める。

老年期(60歳以上)に発症するもの。


●病理

アルツハイマー病では、以下が特徴とされる。

・びまん性の脳萎縮

・大脳皮質に老人斑(アミロイドベータ:Aβの沈着像)と、アルツハイマー型神経原線維変化(neurofibrillary tangle:NFT)の広範囲出現

FADの原因となるアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異、プレセニリン遺伝子変異のいずれもAβの産生亢進を誘導することが判明している。


●症状

症状は進行する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能や問題解決能力の障害など)であり、生活に支障が出てくる。

重症度が増し、高度になると摂食や着替え、意思疎通などもできなくなり最終的には寝たきりになる。

階段状に進行する(すなわち、ある時点を境にはっきりと症状が悪化する)脳血管性認知症と異なり、徐々に進行する点が特徴的。

症状経過の途中で、被害妄想や幻覚(とくに幻視)が出現する場合もある。

暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動(いわゆる周辺症状)が見られることもあり、介護上大きな困難を伴うため、医療機関受診の最大の契機となる。



●薬物療法

アルツハイマー型認知症に対しては近年治療薬の開発によって薬物治療が主に行われるようになってきたが、現在のところ根本的治療薬は見つかっていない。

現在開発中の薬現在開発研究段階ではあるが根本治療薬として以下が臨床研究中である。

・Aβ(アミロイドベータ)ワクチン療法

・抗Aβモノクローナル抗体療法


現在発売中の薬現在使用されているアルツハイマー型認知症の治療薬は大きく分けて2種類に分かれる。

・コリンエステラーゼ阻害薬

 主にマイネルト基底核から投射される脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの活性がアルツハイマー型認知症では低下していることが分かっている。

そのため、その分解を促進するコリンエステラーゼを阻害するコリンエステラーゼ阻害薬が各国で承認を受け治療に使用されている。

現在日本では以下の3種類の薬剤が利用できる。

・ドネペジル(Donepezil アリセプト:Aricept) 現在重症のアルツハイマー型認知症で使用できるのはドネペジルのみである。

用量は1日あたり3-10mg(海外では23mg/日の用法もある)である。

コリンエステラーゼ阻害薬に共通して最も多い副作用である消化管症状(吐き気・嘔吐・下痢)のため3mgから開始することが推奨されている。

その他よく見られる副作用としては徐脈などが見られる。

ドネペジルの効果についてはMMSEで1-2点程度であり劇的な改善が認められないものの、使用開始時に効果がなかった患者でも12ヶ月後に認知機能の低下が抑えられたとする報告があり、一定期間進行を遅らせることができると考えられている。

ガランタミン(Galantamine レミニール:Reminyl)

リバスチグミン(Rivastigmine リバスタッチパッチ イクセロンパッチ) 分子量が小さいため経皮吸収が可能であり、飲み薬ではなく貼り薬として使用することが出来る。

このため比較的消化管への副作用が少ない。

アセチルコリンエステラーゼだけでなくブチリルコリンエステラーゼも阻害するため、従来のコリンエステラーゼ阻害薬よりも効果が高いとの報告がある。


NMDA阻害薬

メマンチン(Memantine メマリー:Memary)

現在のところ軽症のアルツハイマー型認知症に対して適応が通っていないものの、海外の研究でドネペジルとメマンチン併用した群では自宅からナーシングホームへの入所率がドネペジル単独使用または薬剤非使用群に対し優位に低下することが分かっている。

メマンチンで最も多い副作用はめまいである。





●●● ドネペジル ●●●

ドネペジル (donepezil) は、アルツハイマー型認知症(痴呆)進行抑制剤の一種。エーザイの杉本八郎らにより開発された。

ドネペジル塩酸塩は、アリセプトという商品名でエーザイから発売され、かつては海外市場おいてはファイザーとの提携により、同名(Aricept)で販売されている。

「新薬開発におき、欧米企業に後れをとる」と批判されがちな日本の製薬業界であるが、アリセプトは日本国外市場でも市場占有率8割以上を誇る。



●適用・効能

アルツハイマー型認知症の認知症症状の進行抑制に用いられる。

アルツハイマー型認知症の早期に使用することによって認知機能の一時的な改善をもたらす。

アルツハイマー型認知症の病態を治療したり、最終的に認知症が悪化することを防ぐ薬剤ではない。

投与12週以降で臨床認知機能評価尺度の点数を改善する。

しかし、数年以上の長期にわたる投与試験は行われておらず、現時点で長期投与の有効性についてのデータはない。

これは、投薬対象人口が高齢であり、ランダムサンプルを用いた縦断的研究データ収集が難航しているからである。


●作用機序

アルツハイマー型認知症では、脳内コリン作動性神経系の障害が認められる。

本薬は、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害することにより脳内アセチルコリン量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する。



以上
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中枢神経に効く薬(2)「抗パーキンソン病薬」

抗パーキンソン病薬(antiparkinson, antiparkinsonian)は、パーキンソン病やパーキンソン症候群の症状を治療し軽減する目的で用いられる薬物の種類である。

これらの薬剤の多くは、中枢神経系(CNS)におけるドーパミン活性を増加させたりアセチルコリン活性を低下することによって作用する。

1960年代にはパーキンソン病の治療にドーパミン補充療法が登場したため、抗コリン性のパーキンソン病薬は、主に抗精神病薬との併用において用いられる。

抗コリン薬は、抗精神病薬の使用による遅発性ジスキネジアには無効である。

抗コリン薬のビペリデン(商品名はアキネトンやタスモリン)の添付文書には、その旨が記載されている。

しかし、使用を控えるように推奨される現代においても、しばしば精神科の多剤大量処方にて用いられる。


●ドーパミン作用

・ドーパミン作動性前駆体

好ましくない交感神経様作用の副作用を防止するために他の薬よりも優先される。

代謝されドーパミンになるアミノ酸といった神経伝達物質の前駆体である。

*フェニルアラニン

*チロシン

*レボドパ


・選択的モノアミン酸化酵素B阻害剤

モノアミン酸化酵素B(英語版)によるドーパミンの代謝を阻むことで、脳内の濃度を増加させる。

モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)である。

従って致命的になる可能性のあるセロトニン症候群を避けるための多くの薬剤相互作用の注意がある。

*セレギリン

*ラサギリン


・COMT阻害剤

カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)によるドーパミンの代謝を阻むことで、脳内の濃度を増加させる。肝障害の可能性があるため監視が必要である。

*エンタカポン

*トルカポン


・ドーパミン受容体作動薬

直接、ドーパミンの活動を増加させる。

多くの覚醒剤は、慢性的な使用により統合失調症様の症状を呈するため、現に罹患しているか既往歴がある場合には慎重投与の旨の、使用上の注意が添付文書に記載されている。

*アポモルヒネ(アポカイン)

*ブロモクリプチン

*プラミペキソール

*ロピニロール(レキップ)

*ロチゴチン(ニュープロパッチ)




●抗コリン作用

・抗コリン薬

ムスカリン作動性拮抗薬(英語版) (たとえばベンズトロピン)。

運動過剰症を予防する。

非定型抗精神病薬が登場した現代においては、抗精神病薬の単剤化、減量などによって抗パーキンソン薬を用いないようにすることが推奨されている。

抗精神病薬のハロペリドールの筋肉注射においても慎重な監視によって急性ジストニアが生じた場合にのみビペリデンを投与するというのが、世界的に標準的な方法である。

*ビペリデン (アキネトン、タスモリン)

*ジフェンヒドラミン(レスタミン)

*ジメンヒドリナート(ドラマミン)

*スコポラミン(ブスコパン)

*ベンズトロピン


・副作用

副作用は、口渇、便秘、排尿障害、認知機能や注意機能の低下、遅発性ジスキネジアのリスク増加など。

認知機能の障害として物事を想起するテストに対しての記憶障害がみられるが、薬剤の中止により10日程度で改善する。

甲状腺機能や眼内圧を亢進させるため、緑内障や甲状腺機能亢進症では併用禁忌あるいは慎重投与である。

抗コリン薬は、抗精神病薬の使用による遅発性ジスキネジアの危険性を高めるといういくつかの証拠がある。

少なくとも抗コリン薬が遅発性ジスキネジアの重症度を高くすることについては十分な証拠があるため、抗コリン薬の中止が推奨される。

従って、ビペリデン(商品名はアキネトンやタスモリン)の添付文書では、遅発性ジスキネジアには無効で場合により悪化する旨が記載されている


・離脱症状

抗コリン性抗パーキンソン病薬の減薬は、コリン作動性リバウンド症候群を生じるため、慎重に徐々に行うことが必要である。

これらの薬剤の離脱症状として、不安、不眠、頭痛、嘔吐、めまい、インフルエンザ様症状や妄想症状の悪化が見られるため、抗精神病薬と同時の減量は注意が必要である。

抗パーキンソン病薬にも離脱症状が生じるため抗精神病薬が1剤になった時点で抗パーキンソン病薬の減量に取り掛かるなど慎重にとりかかる必要がある。



以上
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2014年03月28日

中枢神経に効く薬(1)「てんかん治療薬(1)」

●「てんかん」とは

てんかん(癲癇、Epilepsy)とは、脳細胞のネットワークに起きる異常な神経活動(以下、てんかん放電)のためてんかん発作を来す疾患あるいは症状である。

WHO国際疾病分類第10版(ICD-10)ではG40である。



●てんかんの概念と歴史

てんかんは古くから存在が知られる疾患のひとつで、古くはソクラテスやユリウス・カエサルが発病した記録が残っており、各国の疫学データでは発症率が人口の1%前後となっている。

昔は「子供の病気」とされていたが、近年の調査研究で、老若男女関係なく発症する可能性があるとの見解も示され、80歳を過ぎてから発病した報告例もある。

てんかんは特に全般発作時の激しい全身の痙攣から、医学的な知識がない時代には狐憑きなどに代表される憑き物が憑依したと誤認され、時に周囲に混乱を起すことがあり差別の対象となることがあった。



●てんかんの定義

WHOによる定義によるとてんかん(epilepsy)とは『種種の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であり、大脳ニューロンの過剰な放電から由来する反復性の発作(てんかん発作、seizure)を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見の表出が伴う』とされている。

この定義は「大脳皮質の過剰な発射ではない」、「反復性でない」、「脳疾患ではない」、「臨床症状が合わない」、「検査所見が合わない」ものは「てんかん」から鑑別するべきだという意味が込められている。

日本神経学会のてんかん治療ガイドライン2010では『てんかんとは慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の症状(発作)が反復性(2回以上)に起こるものである。

発作は突然起こり、普通とは異なる身体症状や意識、運動および感覚の変化が生じる。

明らかな痙攣があればてんかんの可能性は高い』と記載されている。

上記の定義があるため、以下のことが言える病因が大脳ニューロン由来の過剰な活動であるため、大脳ニューロンを由来としない不随意運動はてんかんではない。

例えば脊髄性ミオクローヌスや下位ニューロン障害の線維束攣縮などはてんかんではない。

また経過が慢性反復性でなければならないことから、薬物中毒の離脱期におこる痙攣はてんかんではない。

これらの痙攣に関しては急性症候性発作で述べる。



●てんかんの治療

てんかんの治療のガイドラインとしては日本神経学会のてんかん治療ガイドライン2010のほか日本神経治療学会の高齢発症てんかんのガイドライン、日本てんかん学会のガイドラインが知られている。

てんかん治療ガイドラインはてんかんを専門としない一般医を対象としているのに対して日本てんかん学会のガイドラインはてんかん専門医レベルを対象としている。

主にのてんかん治療ガイドライン2010を念頭に記載する。


急性の脳損傷、代謝性要因、炎症、中毒、薬剤性などによる原因、誘因が明らかな急性症候性発作の再発率は3〜10%程度と低く、原因、誘因を避ける事により経過観察が可能なケースも多い。

誘因がはっきりしないてんかん発作は再発率が30〜50%と高く、各々の症例に応じて治療開始を検討する。

初回発作後5年以内の再発率は35%であるが2回目の発作後1年以内の再発率は73%となるため一般にてんかんは2回以上の発作後に治療を開始する。

個発発作でも神経学的異常(例えばtodd麻痺)、脳波異常ないしてんかんの家族歴陽性の場合は再発率が高くなるため治療開始を考慮する。

また高齢者は初回発作後の再発率が66〜90%と高く、初回発作後に治療を開始することが多い。

初回発作、再発1回目、再発5回目での治療開始でその後2年までは発作抑制率に若干の差があるが長期的にみると差はない。

抗てんかん薬の選択を左右する因子は発作型、てんかん症候群、年齢、性別、併存疾患、抗てんかん薬の効果と副作用、ガイドラインでの位置づけ、費用、保険適応などによって決定する。




●抗てんかん薬

抗てんかん薬(こうてんかんやく)は、てんかん及び痙攣に使用する薬品である。知覚や意識を障害することなく筋の異常興奮を抑制する。


●一般的な抗てんかん薬


●バルビツール酸系

フェノバルビタール(PB)(商品名:フェノバール、ワコビタール、ルピアール、ノーベルバール)強直間代発作が他剤で止まらない場合に追加すると奏功することがある。

ノーベルバールの点滴、またはフェノバール筋肉注射などがよく用いられる。

半減期が非常に長く1日1回投与で十分である。

副作用の小脳失調は遅れて出現するため注意が必要である。

プリミドン(PRM)(商品名:マイソリン、プリムロン)局在関連てんかんにおける二次性強直間代発作に有効とされている。

フェノバルビタールが無効でもプリミドンが有効な場合がある。メタルビタール(商品名:ゲモニール)


●ヒダントイン系

エトトイン(商品名:アクセノン)

フェニトイン(PHT)(商品名:アレビアチン、ヒダントール)カルバマゼピンが無効な局在関連てんかん、二次性全般化傾向の強い局在関連てんかんに用いる。

症候性・潜在性全般てんかんや大発作重積でジアゼパム単独で効果不十分な時も用いられる。

アレビアチンは数少ない、点滴可能な抗てんかん薬という点で重宝する。

5〜7mg/Kgが標準の一日投与量であるが、急速飽和する場合は15mg/Kgを生理食塩水に溶かして60分程度で点滴する。

500mgで急速飽和する場合が多い。血管外に漏れると強い痛みを起こすこと、点滴では他の製剤と混和すると結晶を作りやすいことなどに注意が必要である。

治療域は10〜20μg/mlと非常に狭い。単剤投与では30μg/mlでようやく発作が防止できることもある。

しかしこの濃度で長期投与を行うと感覚鈍麻など末梢神経障害が出現することがある。

血中濃度はある濃度を超えると指数級数的に上昇し中毒域に達する。

フェニトイン中毒としては眼振、複視、歩行失調など小脳障害が有名である。

その他、不随意運動、知能障害、記銘力障害などが出現することもある。

低アルブミン血症患者ではアルブミン結合率が低いため遊離型増加し作用が増強される。

フェノバルビタールの合剤としてヒダントールが知られている。


●サクシミド系エトスクシミド(ESM)

(商品名:エピレオプチマル、ザロンチン)欠神発作には有効であるが、大発作を悪化させることがある。

成人では15〜30mg/Kg、小児では20〜40mg/Kgが1日量となる。



●ベンズイソキサール系

ゾニサミド(ZNS)(商品名:エクセグラン)局在関連てんかんの場合は第一選択薬として用いることができる。

また症候性・潜在性局在関連てんかんで補助剤として、ミオクローヌスてんかんでも用いることもある。

開始量は成人で100〜200mg、維持量は200〜400mgである。

パーキンソン病治療薬として用いられることもある。

食思不振、体重減少の副作用が有名である。



●ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬は発作型に関わらず有効なことがある。

但しミオクローヌス発作など一部を除いて耐性の形成ができやすい。

また重症筋無力症、急性狭隅角緑内障には禁忌である。

長期使用により耐性と依存性が形成される。

クロナゼパム(CZP)(商品名:リボトリール、ランドセン)ミオクローヌス発作に有効である。

1〜3mgを分2で投与する場合が多い。ジアゼパム(DZP、DAP)(商品名:セルシン、ホリゾン、ダイアップ坐剤)重積状態での第一選択薬であり、救急医療の現場でよく用いられる。

5mgずつ20mgまで使用することが多い。


●ニトラゼパム(NZP)

(商品名:ネルボン、ベンザリン)ミダゾラム(商品名:ドルミカム)(日本では健康保険での適応症はなく、小児科学会が適応要望を出している)

呼吸抑制が出にくいため重積状態で使いやすい。

10mgを生理食塩水20mlで希釈して緩徐に静脈注射といった方法がとられる。

クロバザム(CLB)(商品名:マイスタン)クロナゼパム、ジアゼパムなど従来のベンゾジアゼピン系抗てんかん薬が1,4-ベンゾジアゼピン(1,4位にN原子をもつ)であるのに対してクロバザムは1,5-ベンゾジアゼピンである。

単剤投与では効果は限定的であるがカルバマゼピンで抑制ができなかった複雑部分発作で追加薬として用いられる。

フェニトイン、ゾニサミドにも追加することがある。

バルプロ酸が無効であった特発性全般てんかんの欠神発作に有効な場合もある。

5mg/dayから開始し30mg/dayまで増量できる。



●分子脂肪酸系

バルプロ酸ナトリウム(VPA)(商品名:デパケン、バレリン、セレニカRなど)特発性全般性てんかんの第一選択薬である。

局在関連てんかんでは二次性全般化による強直間代発作に対して有効なこともある。

単剤投与では20mg/Kg/day前後で有効血中濃度に達する場合が多い。

治療開始に伴って嘔気が出現することがある。

特に急激に増量する場合は頻発する。

本態性振戦が出現し、副作用対策でβブロッカーが投与されることもある。

高アンモニア血症、血小板減少症をきたすこともある。



●イミノスチルベン系

カルバマゼピン(CBZ)(商品名:テグレトール、テレスミン)

局在関連てんかんの第一選択薬である。

特に精神症状を併発する場合に向精神作用があるため好んで用いられる。

代謝産物であるカルバマゼピンエポキシドにも抗てんかん作用がある。

バルプロ酸と併用するとエポキシドの作用によって血中濃度が正常でも中毒症状が出現することがあるため注意が必要である。

単剤投与では8〜12mg/Kgで、多剤投与では14〜20mg/Kgで有効血中濃度に達することが多い。

投薬開始時は一過性の血中濃度高値を示し、副作用が出現しやすい。

逆に当初は有効血中濃度であっても、同じ投与量では徐々に有効血中濃度が低下している。

そのため、100mg程度の投与から開始し、1週間毎に増量していくといった使い方もある。

投与後1〜2時間で複視、めまいといった小脳症状、1週間ほどで発疹が出現することがある。

発疹は1割程度の出現率であるが重篤なものは更にその1割であり(つまり1%、100人に1人)、内服継続で軽快することも多い。

SLE様の皮疹は6〜12カ月で出現することがあり、可逆的であるが抗核抗体は陰性化しない。

その他、低ナトリウム血症や水中毒を起こすことがある。

神経痛の治療で用いた場合に不整脈の出現など重篤な副作用報告がある。

神経痛に対してはプレガバリン(商品名:リリカ)と並んでよく用いられる。


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2014年03月26日

鎮痛薬とは。その働きと注意点

鎮痛薬とは

鎮痛剤(ちんつうざい)とは、痛みを和らげたり取り除いたりする医薬品の総称。

非常に幅広い種類の医薬品に対して用いられる。

英語ではanalgesic或いはPainkillerと呼び、ギリシャ語で"〜無しで"を意味する"an-"と、"痛み"を意味する"-algia"の合成語である。

PainKillerは文字通り「苦痛を殺すもの」である。



鎮痛剤は、中枢神経系・末梢神経に様々な効用をもたらす。

鎮痛剤の種類は多種多様であるが、主なものに

1.パラセタモール(アセトアミノフェン)

2.非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs) 例:サリチル酸塩、アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク

3.麻薬 例:モルヒネ

4.麻薬成分を含んだ合成薬 例:トラマドール

がある。


鎮痛剤には三環系抗うつ薬や抗痙攣薬など、鎮痛を目的とせず、神経障害を改善するために用いられているものも含まれる。

稀ではあるが、テトロドトキシンなどの一部の毒物にも神経麻痺作用があるため、鎮痛剤として用いられる例もある。





■■■ 主な鎮痛剤 ■■■


●パラセタモールとNSAIDs系薬剤

パラセタモール(アセトアミノフェン)がどのように作用するのかは正確に分かっていない。

しかし、中枢神経に働きかけているという事はうかがえる。

アスピリンなどNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼの作用を阻害し、炎症のメディエーターであるプロスタグランジンの生成量を減少させる。

この作用が痛み、更には炎症を抑える(パラセタモールとオピオイドとは対照的)。

NSAIDsとして代表的なものはジクロフェナク、ロキソプロフェン、フェルビナク、フルルビプロフェンなどである。

「NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)」とは、非ステロイド性抗炎症薬の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称。

パラセタモールには副作用はほとんど無いが、肝機能障害を引き起こす可能性があるので投与量は制限される。

NSAIDsは、消化器潰瘍・腎不全・アレルギー反応・聴覚障害を引き起こす要因と成りうる。

また、血小板の機能にも影響を与えるので出血の危険性が増す可能性がある。

ウイルス性の病を罹患している16歳以下の子どもに対する正しいNSAIDsの投与は、ライ症候群の改善に寄与するものである。




●COX-2抑制剤

COX-2阻害剤は、1990年代以降注目を集めた医薬で、NSAIDsに属する。

NSAIDsによって阻害されるシクロオキシゲナーゼ酵素には、少なくとも三つのアイソザイム、COX-1、COX-2、及びCOX-3があることがわかっている。

研究によって、NSAIDsの副作用のほとんどはCOX-1酵素をブロックする事によって起きており、COX-2酵素は炎症作用にかかわっていることがわかった。

NSAIDsは、一般的にCOX-1とCOX-2の両方の働きを阻害する。

このためCOX-2のみを選択的に阻害する薬剤を創れば、胃痛などの副作用のない優れた消炎鎮痛剤になると考えられた。

ロフェコキシブやセレコキシブなど、これに分類される薬品は、NSAIDsと等しい鎮痛効果を持ちながら消化管の出血が起こりにくいとされ、ベストセラーとなった。

しかし発売後のデータ分析によって、消化管出血は起こりにくいものの心疾患の確率が上昇することがわかり、ロフェコキシブは市場から回収された。

これがロフェコキシブのみのことなのか、COX-2阻害剤全体に共通する副作用であるのか、現在議論されている所である。




●アヘンとモルヒネ

モルヒネには、典型的なオピオイドの他、コデイン・オキシコドン・ハイドロコドン(英: Hydrocodone)・ヘロイン・ペチジンなど、様々な副次的な薬品が含まれる。

これらは全て、脳のオピオイド・レセプターに似たような影響を及ぼす。

トラマドールとブプレノルフィンはオピオイド・レセプターの部分活性薬であると考えられている。


オピオイドに影響する薬品を飲む事により、錯乱・てんかんの一種のミオクロニー発作・縮瞳を引き起こす事があるため、その服用量は制限されるべきである。

しかし、この薬品に耐性のある患者については服用限度が設定される必要はない。



オピオイド剤は、効果的な鎮痛効果をもたらす反面、不快な副作用をもたらす可能性がある。

モルヒネの投与を始めた患者のうちおよそ三人に一人には、吐き気や嘔吐の症状が現れる。

これらの症状は一般的には、制吐剤の投与によって改善される。


掻痒症(かゆみ)が発生した場合には、別のオピオイド剤に変更する必要性がある場合がある。


便秘は、オピオイド剤の投与を受けた患者のほぼ全てに起こる症状である。

便秘に対しては、ラクツロース・マクロゴール含有剤・co-danthramerなどの薬剤が一様に用いられる。


オピオイド剤は、適切に用いられれば安全で効果的な麻薬鎮痛効果をもたらすし、中毒症状を起こす危険性も高くない。

ただ、服用量を段階的に減らす場合には、禁断症状が起こらないように配慮する必要がある。



●特筆すべき作用

慢性的もしくは神経障害による痛みをもつ患者には、これらの他に効果的と思われる鎮痛剤が存在する。

三環系抗うつ剤、特にもアミトリプチリンは、中枢神経に起因する痛みを改善する事が分かってきている。

カルバマゼピン・ガバペンチンの正確なメカニズムは、明確になっていない。

しかし、これら抗けいれん薬は、神経障害による痛みを改善するのにいくらか効果がある。




■■■ 主な使用法 ■■■


組み合わせ鎮痛剤はよく組み合わせて用いられる。

例えば処方箋無しで手に入るパラセタモールとコデインの組み合わせは鎮痛に多く用いられる。

鎮痛剤の組み合わせはプソイドエフェドリンのような血管収縮剤と合わせて腫れ物の治療に用いたり、抗ヒスタミン剤と合わせてアレルギー患者の治療に用いられる。

パラセタモール・アスピリン・イブプロフェン・ナプロキセンなどのNSAIDsの使用はハイドロコドンと同じくらいまで作用を弱められたアヘン剤と共に用いる事により有益な相乗効果をもたらすので一般的に併用される。

局所か全身か局所無痛核は一般的には全身性の副作用を避けるために推奨される。

例えば、関節の痛みに対してはイブプロフェンかジクロフェナク含有ジェルが用いられるだろう。

また、カプサイシンも局部に用いられる。リドカインとステロイドは、より長期間の鎮痛ために、関節に注射されるかも知れない。

リドカインは、口腔内の傷の痛みの鎮痛・あまり多くはないが医学的な治療・歯科治療のための局所麻酔に用いられる。

向精神薬テトラヒドロカンナビノールやカンナビノイド剤などの鎮痛剤には、大麻から作られるものと化学合成によって作られるものがある。

ただ、大麻から製造されたものは多くの国で違法薬物とみなされる。

その他の向精神薬にはNMDA受容体拮抗剤であるケタミンや、クロニジン、α2-アドレナリン受容体拮抗薬であるメキシレチン、その他の局所麻酔類似物がある。



●その他、鎮痛剤の補完物質

オルフェナドリン・シクロベンザプリン・スコポラミン・アトロピン・ニュートリンなど、第一世代の抗うつ薬・抗コリン剤・抗けいれん剤は、オピオイドのような、主に働く、鎮痛剤の働きを強化するために多く用いられる。

この併用には、副交感神経系に働きかけで神経障害に起因する疼痛の改善・他の鎮痛剤の作用が調整できるなどの利点がある。

デキストロメトルファンは、オピオイドに対する耐性の形成を遅らせて、NMDA受容体に作用する事によって更なる鎮痛効果をもたらす事が知られている。

メタドンとケトベミドンと、おそらくピリトラミドのような幾つかの鎮痛剤の組み合わせは固有のNMDA作用をもたらす。


補助鎮痛剤の用法は、ペインコントロールの分野において非常に重要かつ発展している分野であり、ほとんど毎年新しい発見がなされている。

医薬品の副作用を改善し、更なる利点をもたらす薬剤も多くある。

例えば、オルフェナドリンを含む抗ヒスタミン剤は、強い鎮痛剤によって引き起こされるヒスタミンの放出を抑える。

オピオイド・メチルフェニデート・カフェイン・エフェドリン・アンフェタミン・デキストロアンフェタミン(英: Adderall, 英: Dexedrineレジスタードマーク)・コカインなどの(広義の)覚せい剤は、極度の鎮静作用を抑え、抗うつ薬と同様、痛みに苦しむ患者の気分を高揚させうる。

THC(テトラヒドロカンナビノール)の明らかな効用の一つは、慢性的な痛みによってオピオイドの投与を受けている患者に対する制吐作用であろう。


マリノールカプセル(英: Marinol)・経口・直腸・ハッシュオイル(英: Hash oil)の蒸気吸入は、喫煙によって大麻を吸入するよりも効果的であり、これは多くの医師が大麻の喫煙を止めるように助言を行う事と同じ理由である。




■■■ 中毒 ■■■

連用により薬物乱用頭痛を引き起こすことがある。

近年アメリカ合衆国では、オキシコドンやハイドロコドンなど、オキシコドン・アセトアミノフェン・パラセタモールを複合的に配合したパーコセットとは対照的な単一成分の処方薬による中毒患者が増えている。

単体のハイドロコドンは、ヨーロッパの幾つかの国で錠剤の医薬品として入手ができるのみである。

中毒をもたらすどころか、これら多くのコデインを含むパラセタモール・ジヒドロコデイン・ハイドロコドン・オキシコドン剤などアメリカ合衆国内で用いられる薬品は、服用する者に深刻な肝障害の危険性を負わせる。

冷水や冷媒によって抽出されるオピオイドは薬物乱用者・自己投薬者・合法的な薬の所持者に、これら問題が発生する可能性を減らす。

アメリカ合衆国で販売されているほとんどのハイドロコドン・コデイン・ジヒドロコデインを含む咳止めシロップは、過剰摂取の危険性をはらんでいる。




●代表的な薬物

●パラセタモール(カロナールレジスタードマーク,アンヒバレジスタードマーク坐剤)

●アスピリン(商品名:アスピリンレジスタードマーク、バファリンレジスタードマーク

●イブプロフェン(ブルフェンレジスタードマーク、エスタックイブ)

●ジクロフェナク(ボルタレンレジスタードマーク

●ロキソプロフェン(ロキソニンレジスタードマーク

●コデイン(パラセタモール、アスピリン、イブプロフェンと共に調合されて商品化される。)



以上

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2014年03月24日

睡眠薬とは?

睡眠薬(すいみんやく、Hypnotic、Soporific)は、不眠症や睡眠が必要な状態に用いる薬物である。

睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝付きを良くするなどの作用がある。

睡眠薬 (スリーピングピル、Sleeping pill)、催眠薬とも呼ばれる。

多くは国際条約上、乱用の危険性のある薬物に該当する。




■■■ 概要 ■■■

化学構造により、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系(イミダゾピリジン系、シクロピロロン系、ピラゾロピリミジン系)、バルビツール酸系や抗ヒスタミン薬などに分類される。

これらはすべてGABA受容体に作用し、また薬剤間で効果を高めあう相加作用がある。

作用時間により、超短時間作用型、短時間作用型、中時間作用型、長時間作用型に分類される。

同じくGABA受容体に作用するアルコールとの併用は相加作用を強める危険性が高く、特に力価の強い薬剤では呼吸中枢を抑制し死に至る危険性がある。

同じくGABA受容体に作用する気分安定薬として販売される抗てんかん薬とも相加作用がある。


常用により効果が弱くなる耐性が生じ数週間でほとんど効果がなくなるが、そのために多剤大量処方となりやすく、とりわけ長期間、高用量の服用で離脱症状が激しく生じるため、急な断薬は推奨されない。

離脱に入院を要するような致命的な発作を引き起こす可能性がある薬物というのは、ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系の鎮静催眠薬およびアルコールのみである。

また離脱症状の特徴として長期離脱症状が生じる。



麻酔として使用された場合に意識消失を生じさせるこれらによる「睡眠」とは比喩であり、通常の睡眠段階や自然な周期的な状態ではない;患者はまれにしか、麻酔から回復し新たな活力と共に気分がすっきりすることを感じない。

この種類の薬には一般的に抗不安作用から意識消失までの用量依存的な効果があり、鎮静/催眠薬と称される。


ほかの種類の睡眠薬にメラトニン受容体に作用する、メラトニンホルモンとメラトニン受容体作動薬とがある。

バルビツール酸系の薬は治療指数が低く、現在では過量服薬の危険性を考慮すると使用は推奨されない。

バルビツール酸系の危険性のため、1960年代にはベンゾジアゼピン系が主流となったが、これにも安全上の懸念があり、1980年代に非ベンゾジアゼピン系が登場した。

この非ベンゾジアゼピン系もベンゾジアゼピン系と大きな差が見られず、現在では薬物療法以外の方法に注目される。



GABA受容体に作用する睡眠薬の副作用として、依存形成のほか、服用後の記憶がない健忘(記憶障害)、記憶がない状態での車の運転などの夢遊行動、起床後の眠気、悪夢などがある。

まれに一過性の健忘、脱抑制、自動行動などが組み合わさった奇異反応を生じる。

健忘状態で自殺企図を行う事例があり、助かった場合にしかそれが奇異反応であったことが判別しにくい。

また、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系とメラトニン作動薬の使用は抑うつ症状を増加させる。



1996年には、世界保健機関はベンゾジアゼピン系の「合理的な利用」は30日までであるとしている。

また自殺の危険性を増加させるため慎重な監視と、自殺の恐れ、物質依存、うつ病、不安では特別な注意が必要であり、処方するとしても数日から数週間としている。

しかし、長期間に渡る処方が行われる場合がある。

睡眠薬の長期的な使用は死亡リスクを高めることが実証されている。

男女ともに、睡眠薬の使用が自殺の増加に結びついていることが明らかになっている。

他害行為の危険性を高める薬剤がある。


1971年より向精神薬に関する条約が公布され、バルビツール酸系とベンゾジアゼピン系の多くは、乱用の危険性があるために、国際条約上の付表(スケジュール)IIIおよびIVに指定され流通が制限される。

アメリカでは規制物質法にて同様に付表にて定められている。

日本においても、国際条約に批准しているため麻薬及び向精神薬取締法において、第2種向精神薬にはバルビツール酸系のアモバルビタールやペントバルビタール、ベンゾジアゼピン系のフルニトラゼパム、第3種向精神薬にはほかのベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の多くが定められている。

第2種向精神薬は付表III、第3種向精神薬に付表IVに相当する。


2010年に国際麻薬統制委員会は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があるとしている。

それに加え、2010年に日本の4学会が合同で危険な多剤大量処方に注意喚起している状況である。

離脱症状や依存症の危険性についても医師が知らない場合があることが報告されている。





■■■ 種類 ■■■

●メラトニン

メラトニンは、ほぼすべての生物の体内に自然に存在し、動物では概日リズムを調節しているホルモンである。

アメリカやイギリスでは処方せんが不要で、単にサプリメントとして販売されている。

日本においては個人輸入が必要になる。

メラトニンは、忍容性が高く依存性がない。

ベンゾジアゼピン系の使用に抵抗のある小児科でも用いられてきた。

高齢者でもベンゾジアゼピン系のような日中の認知機能の低下はなく、記憶や気分の改善もみられている。

催眠作用はジアゼパム(ベンゾジアゼピン系)やゾルピデム(非ベンゾジアゼピン系)よりも弱い。

メラトニンを追加しベンゾジアゼピン系を徐々に減量するよう指示した二重盲検の試験では、メラトニン群の78%がベンゾジアゼピン系を中止し、主観的な睡眠の質が改善されていた。




●メラトニン受容体作動薬

メラトニンは天然の物質なので特許を取得することはできず、作用を模倣するラメルテオン(ロゼレム)が市場に出ている。

体重増加の副作用がある。






●ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系薬は、睡眠の構造におけるレム睡眠および深い睡眠段階を妨げる。


1960年代にバルビツール酸系の危険性から、よく用いられるようになった。

GABA受容体に作用する。 近年は、新しい非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と、ホルモンのメラトニンに置き換えられた。

ベンゾジアゼピンは、短期的には有効であるが、1 - 2週間後には耐性が形成され、そのため長期間の使用には無効となる。

そのため入院の原因となり、とりわけ高齢者に頻繁である。



中止時にはベンゾジアゼピン離脱症状が生じる可能性がある。

これは反跳性不眠、不安、混乱、見当識障害、不眠、知覚障害の特徴を持つ。

従って、耐性、薬物依存、長期使用の副作用を避けるために処方は短期に限られる。





●非ベンゾジアゼピン系

1980年代に登場し、ベンゾジアゼピン系にかわりよく用いられるようになった。

GABA受容体に作用する。 非ベンゾジアゼピン系は、Zからはじまる物質名が多くZ薬とも呼ばれる。




●バルビツール酸系

1900年ごろに登場したが、1960年代以降有名人が睡眠薬を服用し死亡した例が報道された原因の薬剤で、危険視されベンゾジアゼピン系に置き換えられていった。

GABA受容体に作用する。




●抱水クロラール

抱水クロラール系の薬物は1869年に合成されたが、安全性が低く1900年前後にはバルビツール酸系に置き換えられ、ほとんど使用されなくなった。

依存性や臓器障害の悪化のおそれがある。




●日本で承認されているもの

・超短時間作用型

トリアゾラム - 商品名ハルシオンなど、ベンゾジアゼピン系

ゾピクロン - 商品名アモバン、シクロピロロン系

酒石酸ゾルピデム - 商品名マイスリー、イミダゾピリジン系

エスゾピクロン - 商品名ルネスタ、シクロピロロン系



・短時間作用型

エチゾラム(商品名:デパス、エチカームなど。チエノジアゼピン系)

ブロチゾラム(商品名:レンドルミンなど。チエノジアゼピン系)

ロルメタゼパム(商品名:エバミール、ロラメット。ベンゾジアゼピン系)

ブロムワレリル尿素(商品名:ブロバリン。有機臭素化合物)



・短-中時間作用型

ペントバルビタール(商品名:ラボナ、ネンブタールなど。バルビツール酸系)

塩酸リルマザホン(商品名:リスミーなど)



・中時間作用型

フルニトラゼパム(商品名:サイレース、ロヒプノールなど。ベンゾジアゼピン系)

ニトラゼパム(商品名:ベンザリン、ネルボンなど。ベンゾジアゼピン系)

ニメタゼパム(商品名:エリミン。ベンゾジアゼピン系)

エスタゾラム(商品名:ユーロジンなど。ベンゾジアゼピン系

アモバルビタール(商品名:イソミタール。バルビツール酸系)

抱水クロラール(商品名:エスクレ。抱水クロラール系)


・長時間作用型

フルラゼパム(商品名:ダルメート、ベノジールなど。ベンゾジアゼピン系)

フェノバルビタール(商品名:フェノバール。バルビツール酸系)

ハロキサゾラム(商品名:ソメリン。ベンゾジアゼピン系)

クアゼパム(商品名:ドラール。ベンゾジアゼピン系)

その他 ベゲタミンA/B(塩酸クロルプロマジン、塩酸プロメタジン、フェノバルビタール混合薬)

ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬)






●有効性

非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の有効性を評価するために、出版バイアスを除外してメタアナリシスを行ったが、偽薬でも睡眠薬の半分の効果が見られ、睡眠の問題も十分に改善しないことが明らかになった。

60歳以上の不眠症の高齢者に対する非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ザレプロン、ゾルピデム、ゾピクロン)の使用に関する試験をメタアナリシスしたところ、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系では、睡眠の質および、認知機能や転倒や交通事故を含む有害事象において有意な違いはなく、睡眠を改善する効果は小さいので、有害事象の多さは利益を正当化しない可能性があることが示唆された。

このメタアナリシスでは、高齢者に推奨されないバルビツール酸塩及び抱水クロラールは除外されている。



ベンゾジアゼピン系あるいは非ベンゾジアゼピン系は、数日から耐性が生じるため有効性が低下する。

最小の作用量で数日間に限った処方が推奨され、高齢者においては完全に避けるべきである。


ベンゾジアゼピン系は同じ機序であるのに関わらず、一個人に2つ以上の異なるベンゾジアゼピン系が処方され、ノルウェーではそのような処方率は6.9%である。

日本での2009年のそのような処方率は、30万件の診療データからの解析では、1剤で72.7%、2剤で21.2%、3剤以上は6.1%である。


国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のガイドラインでは、うつ病性不眠治療について、抗うつ薬と睡眠薬の併用がQOLを改善するとしたランダム化比較試験結果は複数存在するが、睡眠薬治療で実際に自殺や再発を減少させるか否かを検証したランダム化比較試験は、現在まで行われていないと述べている。




●勧告とガイドライン

1996年には、世界保健機関による「ベンゾジアゼピンの合理的な利用」という報告書において、ベンゾジアゼピン系の「合理的な利用」は30日までの短期間にすべきとしている。

英国国立医療技術評価機構(NICE)による、2004年の不眠症のガイドラインにおいて、睡眠薬の利用は重度の不眠に限り、かつ短期間に留めなければならないとしている。

非ベンゾジアゼピン系のゾルピデム、ザレプロン、ゾピクロン、短期作用型ベンゾジアゼピンの比較評価については有効なデータがなく、最も安価な薬物を選択すべきとしている。

投与中に睡眠導入剤を切り替える場合、患者がその薬剤を直接原因とする副作用が発生した場合のみに限るべきだとしている。

これらの睡眠導入剤について効果を示さなかった患者については、いかなる他の薬剤も処方すべきではないとしている。

アメリカ合衆国では、アメリカ食品医薬品局(FDA)によるベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の添付文書には、7 - 10日の短期間の使用に用いる旨が記載されている。


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全身麻酔とは?

●全身麻酔とは?

全身麻酔(ぜんしんますい、英: General anesthesia)は、麻酔方法の一つ。

中枢神経に薬物を作用させ、無痛、意識の喪失・健忘、筋弛緩、有害反射の予防、の4つを満たす状態にすることで患者の肉体的・精神的苦痛を取り除く。

局所麻酔との大きな違いは意識消失の有無である。

全身麻酔下では患者は苦痛を訴えることができないので、麻酔科医が注意深くモニターする必要がある。

全身麻酔の大きな魅力はあらゆる部位の手術に用いることができることである。

また、麻酔の目的として鎮静(意識消失)、筋弛緩、鎮痛、有害な副交感神経反射の抑制があげられるが、全身麻酔は基本的にはこれらの条件を全て満たす




●概略

全身麻酔は手術に付随する医療である。

典型的な開腹手術を想定して概略を述べる。


術前の合併症や年齢、性別、体重、その他によって麻酔の手順はまったく異なり、それぞれの患者に応じた麻酔が行われるため、この通りに行われないことも多くあることに注意が必要である。

まずは円滑に麻酔を行うために前投与と呼ばれる薬剤投与を行う場合がある。

唾液分泌、気道内分泌の抑制、有害な反射の抑制のために抗コリン薬(アトロピンやスコポラミン)を用いる。

また不安の除去、鎮静、催眠の目的にジアゼパムなどを投与する。

これらは以前は病室で済ませておくことが多かったが、近年は疼痛や合併症を伴う筋肉注射を避けるため手術室入室後に投与することも多い。

手術室に入室すると末梢静脈ルート確保の後、手術部位によっては局所麻酔の一種である硬膜外麻酔用のカテーテルを挿入する。

そして十分な酸素投与を行う。

患者を入眠させる導入という操作では主に静脈麻酔薬であるバルビツレートやプロポフォールと合成麻薬であるフェンタニルを組み合わせて用いる。

患者入眠後はマスクにより気道確保、人工呼吸ができることを確認し、筋弛緩薬を投与する。

筋弛緩薬としてはロクロニウムが用いられることが多い。

筋弛緩薬の効果が得られたら確実な気道確保のため、気管挿管を行う。

その後は人工呼吸を行う。

導入後は吸入麻酔薬であるセボフルランやイソフルラン、または静脈麻酔薬であるプロポフォールを持続的に投与し、麻酔の維持を行う。

亜酸化窒素(笑気)は近年では環境への影響(温室効果)や、術後嘔気嘔吐を招くことから敬遠されることが多い。

手術が終わりに近づくと麻酔薬を徐々に減量し、手術終了すると中止する。

患者の意識が次第に回復するので、手を握ることができる、深呼吸ができるなど、筋弛緩薬の効果の消失、麻酔薬による呼吸抑制の有無などを確認し、条件を満たすなら気管のチューブを抜去する(抜管)。

そして十分な確認の後病棟へ帰室させる。






●●全身麻酔でよく使われる薬物●●

ここでは全身麻酔でよく使われる薬を述べていく。

麻酔薬

●吸入麻酔薬

・亜酸化窒素(笑気)

強力な鎮痛作用を持つが、最小肺胞濃度が高いため単独で全身麻酔をするのは困難である。

以下の吸入麻酔薬と併用して用いられる。

しかし現在では全静脈麻酔(TIVA)の普及や、オピオイド主体のバランス麻酔が普及していること、また、術後の嘔気嘔吐の頻度が高まったり、笑気自体が温室効果の原因となるなど、次第に敬遠される方向にある。

若手麻酔科医は吸入麻酔を用いる際も笑気をまったく用いない者も多く、次第に使用量は減少している。


・イソフルラン(フォーレン)

強烈なエーテル臭と気道の刺激性から、緩徐導入は困難であるが、生体内代謝率の低さから、肝・腎機能の低下した患者の麻酔などで好んで用いられる。


・セボフルラン(セボフレン)

血液ガス分配係数の小ささと臭いが穏やかなことから緩徐導入に向く。

ほぼどんな用途でももちいることができ現在最も頻用されている吸入麻酔薬である。

低流量麻酔下(総流量2L以下)では、旧タイプの二酸化炭素吸収剤との接触により発生するCompound Aが腎機能障害をおこすとされたこともあるが、現在ではほとんど問題とされることはない。



●静脈麻酔薬

・チオペンタール(ラボナール)/チアミラール(イソゾール)

よく用いられているバルビツール系静脈麻酔薬。

小児にも成人にも使用可能である。

喘息には禁忌とされるが、エビデンスはない。


・プロポフォール(ディプリバン、プロポフォールマルイシ)

肝臓での代謝が早く麻酔の導入にも維持にも好んで用いられる現在最も主流の全身麻酔薬である。

疼痛効果がないのでフェンタニルなどの麻薬鎮痛薬や硬膜外麻酔などの局所麻酔と併用する。

小児に対する麻酔目的での使用は禁忌ではないが、避けられる傾向にある。

これは集中治療分野で、長期間鎮静のために投与された患者にPropofol Infusion Syndromeという重篤な病態が発生した報告があるためである。


・ミダゾラム(ドルミカム)

短時間作用性のベンゾジアゼピン。

循環抑制が軽く、重症患者の麻酔導入や、麻酔前投薬にも用いられる。


・ケタミン(ケタラール)

解離性麻酔薬と呼ばれる。

視床、大脳新皮質は抑制するが、大脳辺縁系を賦活する。

血圧上昇、頻脈などをおこす。

体性痛を非常によく抑え、熱傷の疼痛除去でも好んで用いられる。

近年麻薬指定された。


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カテコールアミンとは?

カテコールアミン (Catecholamine) とは、チロシンから誘導された、カテコールとアミンを有する化学種である。

多くの神経伝達物質等(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)及び関連薬物の基本骨格になっている。

カテコラミンとも呼ばれる。



生体内では、チロシンよりチロシン水酸化酵素によりドーパが生合成される。

ドーパはドーパ脱炭酸酵素によりドーパミンへ変換される。

ドーパミンはドーパミンβ水酸化酵素によりノルアドレナリンへ変換される。

ノルアドレナリンは、 フェニルエタノールアミン N-メチルトランスフェラーゼによりアドレナリンへ変換される。

カテコールアミンは輸送、貯蔵され、刺激によって細胞外に放出され、多くが細胞内に再取り込みされる。

一旦細胞外に出ると、Catechol-O-Methyltransferase (COMT) によってメチル化されたり、細胞内で遊離した場合には、モノアミン酸化酵素 (MAO) によってアミノ基が酸化的除去されたりして、速やかに分解される。

ノルアドレナリンはノルメタネフリンへ、アドレナリンはメタネフリンへと代謝・不活化される。

一般に、水溶性が高く、血液脳関門は通過しないため、静脈内投与で中枢に作用することはない。

カテコラミン神経伝達物質はモノアミン神経伝達物質の一部として含まれる。
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2014年03月23日

アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン

●アドレナリン

アドレナリン(adrenaline、英名:アドレナリン、米名:エピネフリン、IUPAC組織名:4-[1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル]ベンゼン-1,2-ジオール)は、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。分子式はC9H13NO3。

ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖の血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。



●構造と生合成

アドレナリンはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンおよびドパミン)の一つである。

L-チロシンからL-ドーパを経て順にドパミン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、アドレナリン(エピネフリン)と生合成される。



●発見

アドレナリンは1895年にナポレオン・キブルスキーによって初めて発見された。

彼が動物の副腎から抽出したものには血圧を上げる効果が見られたが、これにはアドレナリンとその他のカテコールアミンも含まれていた。

彼はこれらの抽出物を"nadnerczyna"と呼んだ。

これとは独立に、ニュージャージーの研究所にいた高峰譲吉と助手の上中啓三は1900年にウシの副腎からアドレナリンを発見し、1901年に世界で初めて結晶化に成功した。

この時、実際に実験に成功したのは上中であった。

同時期、副腎から放出されている血圧を上げる物質の抽出研究は世界中で行われており、ドイツのフェルトはブタから分離した物質に「スプラレニン (suprarenin)」、アメリカ合衆国の研究者ジョン・ジェイコブ・エイベルはヒツジの副腎から分離した物質に「エピネフリン (epinephrine)」と名付けた。

アドレナリンは英語、スプラレニンはラテン語、エピネフリンはギリシア語でそれぞれ副腎を意味する語に由来する。

アドレナリンは1904年にフリードリヒ・シュトルツおよびヘンリー・デーキンらによって独立に合成された。

エピネフリンはアドレナリンとは分子式の異なる物質であったが、高峰の死後に、エイベルは高峰の研究は自分の盗作であると主張した。

これはアドレナリン発表寸前に高峰がエイベルの研究室を訪問した事実を盾に取った主張であった。

それまでの実績が主として発酵学の分野で、こうした分野での実績に乏しい高峰が、研究に大きな役割を果たした上中の功績を強調せず、自己の業績として発表したことも、本当に高峰らの業績だったのかを疑わせる一因であったと指摘する考えもある。

しかし、後年、上中の残した実験ノートより反証が示されており、またエイベルの方式では抽出できないことも判明して、高峰と上中のチームが最初のアドレナリンの発見者であったことは確定している。

なお、上中が残した実験ノートは兵庫県西宮市の名刹・教行寺に保管されている。




●エピネフリンという名称

現在ではアドレナリンもエピネフリンも同じ物質のことを指しているが、ヨーロッパでは高峰らの功績を認めて「アドレナリン」の名称が使われているのに対して、アメリカではエイベルの主張を受けて、副腎髄質ホルモンを「エピネフリン」と呼んでいる。

現在、生物学の教科書・論文では世界共通でアドレナリンと呼んでいるのに対して、医学においては世界共通でエピネフリンと呼ばれている。

「生体内で合成される生理活性物質」という捉え方と、「医薬品」という捉え方の違いからだが、日本では医薬品の正式名称を定める日本薬局方が改正され、2006年4月より、一般名がエピネフリンからアドレナリンに変更された。




●作用

交感神経が興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれる。

動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を、全身の器官に引き起こす。

運動器官への血液供給増大を引き起こす反応 心筋収縮力の上昇

心、肝、骨格筋の血管拡張

皮膚、粘膜の血管収縮

消化管運動低下

呼吸におけるガス交換効率の上昇を引き起こす反応 気管支平滑筋弛緩

感覚器官の感度を上げる反応 瞳孔散大

痛覚の麻痺

勃起不全

興奮すると分泌されるため、例えば喧嘩になった時に分泌され、血まみれや骨折の状態になっても全く痛みを感じないケースもある。




●医薬品としてのアドレナリン

アドレナリン(商品名「スプラレニン」)のアンプル

アドレナリンは心停止時に用いたり、アナフィラキシーショックや敗血症に対する血管収縮薬や、気管支喘息発作時の気管支拡張薬として用いられる。

有害反応には、動悸、心悸亢進、不安、頭痛、振戦、高血圧などがある。

心停止の4つの病態、すなわち心室細動、無脈性心室頻拍、心静止、無脈性電気活動のいずれに対してもアドレナリンは第1選択として長く使用されてきたが、近年ではバソプレシンが救命率、生存退院率が共に上回ることが証明されバソプレシンに第1選択の座を譲りつつある。

静脈内投与の場合、初回投与量は1mgである。血中半減期は3分から5分なので、3分から5分おきに1mgを繰り返し投与する。

また局所麻酔剤に10万分の1程度添加して、麻酔時間の延長、局所麻酔剤中毒の予防、手術時出血の抑制を図ることもある。

代謝はまずモノアミン酸化酵素によって酸化(脱アミノ化)され、最終的にはバニリルマンデル酸として尿中に排泄される。

商品名として「エピスタ」「ボスミン」「エピペン」がある。



●併用禁忌
カフェイン(カフェイン飲料・製剤) - 相互に作用を増強させ、心臓に負荷をかける。

突然死の原因につながることもある。

タバコ(喫煙) - 相互に作用を増強、精神活動を賦活、錯乱を招く恐れがある。

血管拡張作用のある薬 - 血管収縮作用を減弱させ、相互に効力を弱める。

ブチロフェノン系、フェノチアジン系薬等(α遮断作用のある薬) - アドレナリンの作用を逆転させ、急激な血圧降下を起こす。



●アドレナリンと疾患

褐色細胞腫は副腎腫瘍の一つであり、多量のカテコールアミンが分泌される疾患である。










●ノルアドレナリン

ノルアドレナリン(独: noradrenalin、英: noradrenaline)は、化学式C8H11NO3のカテコールアミンにしてフェネチルアミンである。

米国ではノルエピネフリン (Norepinephrine) として知られる。

シナプス伝達の間にノルアドレナリン作動性ニューロンから放出される神経伝達物質や、副腎から血液に放出されるホルモンとして機能する。

また、ストレス・ホルモンのうちの1つであり、注意と衝動性 (impulsivity) が制御されている生物の脳の部分に影響する。

アドレナリンと共に、この化合物は闘争あるいは逃避反応を生じさせて、心拍数を直接増加させるように交感神経系を動かし、脂肪からエネルギーを放出し、筋肉の素早さを増加させる。

ストレスの多い出来事によって動かされた多数の生理学的変化は青斑核と呼ばれる脳幹の神経核の活動で一部解き放たれる。

この核は脳のほとんどのノルアドレナリン経路の起源である。

それらの神経伝達物質としてノルアドレナリンを使用するニューロンは両側性に、 他の投射中の大脳皮質への異なった経路に沿った青斑、辺縁系、および脊椎から投射する。

シナプスでは、それはアルファとベータ両方のアドレナリン受容体に影響する。


●抗うつ剤

ノルアドレナリン系における変化は憂うつに関係する。

SNRIは、脳内のシナプス後細胞で、利用可能なセロトニンとノルアドレナリンの量を増加させることによって、うつを治療する。

最近はノルアドレナリン自己受容体がドーパミンも再取り込みするかもしれないといういくつかの証拠があり、これはSNRIがドーパミン伝達をも増加させるかもしれないことを意味する。

一部の他の抗うつ薬(例えばいくつかの三環系抗うつ薬 (TCAs) )もまた、ノルアドレナリンに影響する。

いくつかの場合、他の神経伝達物質に影響しない(少なくとも直接ではない)。


●合体合成

ノルアドレナリンはアミノ酸チロシンから一連の酵素反応を経て合成される。

最初のジヒドロキシフェニルアラニン (L-DOPA) への酸化の後神経伝達物質ドーパミンへの脱炭酸が続き、ノルアドレナリンへと最終的にβ酸化する。

さらにノルアドレナリンはアドレナリンへメチル化できる。






●ドーパミン

ドーパミン(英: Dopamine)は、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもある。

運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。

セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンを総称してモノアミン神経伝達物質と呼ぶ。

またドーパミンは、ノルアドレナリン、アドレナリンと共にカテコール基をもつためカテコールアミンとも総称される。

医学・医療分野では日本語表記をドパミンとしている。

統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)は基底核や中脳辺縁系ニューロンのドーパミン過剰によって生じるという仮説がある。

この仮説に基づき薬物療法で一定の成果を収めてきているが、一方で陰性症状には効果が無く、根本的病因としては仮説の域を出ていない。

覚醒剤はドーパミン作動性に作用するため、中毒症状は統合失調症に類似する。

強迫性障害、トゥレット障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)においてもドーパミン機能の異常が示唆されている。

一方、パーキンソン病では黒質線条体のドーパミン神経が減少し筋固縮、振戦、無動などの運動症状が起こる。

また抗精神病薬などドーパミン遮断薬の副作用としてパーキンソン症候群が起こることがある。

中脳皮質系ドーパミン神経は、とくに前頭葉に分布するものが報酬系などに関与し、意欲、動機、学習などに重要な役割を担っていると言われている。

陰性症状の強い統合失調症患者や、一部のうつ病では前頭葉を中心としてドーパミンD1の機能が低下しているという仮説がある。

下垂体漏斗系においてドーパミンはプロラクチンなどの分泌抑制因子として働く。

そのためドーパミン作動薬は高プロラクチン血症の治療薬として使用され、逆にドーパミン遮断薬は副作用として高プロラクチン血症を誘発する。




●生合成過程

ドーパミンの前駆体はL-ドーパである。

L-ドーパはフェニルアラニンやチロシンの水酸化によって作られる。

チロシン→L-ドーパ(L-ジヒドロキシフェニルアラニン)

チロシン水酸化酵素 (tyrosine hydroxylase, TH)

L-ドーパ→ドーパミン

ドーパ脱炭酸酵素 (dopa decarboxylase, DDC; 芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素 aromatic amino acid decarboxylase, AAAD, AADC, DDCなどと表記される)

さらに一部のニューロンにおいては、ドーパミンから、ドーパミン-β-モノオキシゲナーゼ (dopamine beta hydroxylase, DBH; あるいは dopamine beta-monooxygenase) によってノルエピネフリン(ノルアドレナリン)が合成される。




●放出・再取り込み・分解

ニューロンでは、ドーパミンは合成された後、小胞の中へ充填され(中枢神経系では小胞性モノアミン輸送体2 vesicular monoamine transporter 2 (VMAT2, SLC18A2) の働きによる)、活動電位の発生に伴って、放出される。

放出後のドーパミンは、ドーパミン輸送体 (dopamine transporter, DAT, SLC6A3) によって、ドーパミン作動性の軸索に再取り込みされる。

その後、カテコール-O-メチル基転移酵素 (catechol-O-methyl transferase, COMT) EC 2.1.1.6 およびモノアミン酸化酵素 (monoamine oxidase,MAO) EC 1.4.3.4によって、分解される。

酵素による分解を免れたドーパミンは、再び小胞へと充填されて再利用されると考えられている。

ドーパミンが関係する薬剤には以下のようなものがある。

抗精神病薬は、主にドーパミンD2受容体を遮断することで効果を発現する。

抗パーキンソン病薬のほとんどは、ドーパミンの前駆体であったりドーパミン受容体を刺激したりすることでドーパミン作動性に働くことで効果を発現する。


末梢において作用するもの

ドーパミン(イノバンレジスタードマーク、カタボンレジスタードマーク):急性循環不全治療薬ドーパミン作動薬

L-ドーパ(ドパストンレジスタードマーク)、L-ドパ・カルビドパ配合剤(ネオドパストンレジスタードマーク)、カベルゴリン(カバサールレジスタードマーク)、ブロモクリプチン(パーロデルレジスタードマーク)、アマンタジン(シンメトレルレジスタードマーク)、アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート などドーパミン拮抗剤

抗精神病薬 、メジャートランキライザーとも呼ばれるクロルプロマジン、ハロペリドールなど。

局所麻酔薬とは?

局所麻酔(きょくしょますい、英: local anesthesia)とは意識消失を伴わずに部分的に除痛を行う麻酔である(意識消失を伴う麻酔は全身麻酔という)。

主に、侵襲性の低い手術や簡単な救急処置、周術期の全身麻酔と併用した鎮痛目的などで用いられる。



種類

局所麻酔は薬剤の作用部位により以下のような種類がある。

●脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)

●硬膜外麻酔

●局所浸潤麻酔

●表面麻酔

●伝達麻酔


全身麻酔との大きな違いは、痛みは感じなくなっているが、意識の消失はないということである。

これは何かしらの身体の変化に患者自身が気付くこと、意識消失がなく呼吸も保たれること、意識消失に使用する全身麻酔の薬剤が使用できない状況でも手術を行うことが可能(妊娠中の患者・帝王切開手術など)などの利点がある。

しかし除痛ができていても体に侵襲が加わっていることに変わりは無い。

術中に患者にとって不利益な精神症状が出てくる可能性は否定できない。

そのため状況に応じて鎮静が必要になることもある。

近年は全身麻酔と局所麻酔の併用、もしくは局所麻酔に鎮静を加えた手法(Monitored Anesthesia Care)も頻用される。




●脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)

局所麻酔薬をくも膜下腔に投与する麻酔である。

麻酔薬としては、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、ジブカイン、ブピバカインを用いることが多い(現在本邦では調節性のよいブピバカインが特に頻用される)。

主に下腹部・下肢の手術に用いられる。

硬膜外麻酔との比較として少量の麻酔薬で効果が現れ、手技的にも容易であるという点があげられる。

しかし硬膜外麻酔と比べて麻酔可能部位が制限されること(臍上部周辺の手術が限界であり、上腹部〜胸部の手術は困難)、持続的投与ができないなどの弱点がある。




●硬膜外麻酔

局所麻酔薬を硬膜外腔に投与する麻酔である。

エピ(epi)あるいはエピドラ(epidural)と略されることもある。

麻酔薬としてはリドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカインを用いることが多い(本邦においては2010年現在、リドカイン、メピバカイン、ロピバカインの使用頻度が高い。近年レボブピバカインも登場し、活用されている)。

適応は基本的に脊椎麻酔と同じであるが、硬膜外への穿刺部位を変えることで目的とする区域のみに限定して除痛を行う事が可能なため、頚部、胸部の手術にも用いることが出来る。

更に注入カテーテルを硬膜外腔に留置して局所麻酔薬を追加することにより、より長時間除痛を行う事が出来るなどのメリットもある。

また注入カテーテルを通じて持続的に局所麻酔薬を注入する専用のポンプを用いて持続的に除痛を行う事も出来、胸部・腹部・下肢手術に頻用されている。

全身麻酔と併用することが多く、併用することで全身麻酔に必要な鎮痛薬の使用量を減ずることも可能である。

弱点としては、手技的にやや難しいこと、脊髄くも膜下麻酔に比べて多くの局所麻酔薬が必要となるので局所麻酔薬中毒がやや起こりやすいことがあげられる。




●局所浸潤麻酔

狭義の局所麻酔である。

主に小切開の場合に用いる麻酔である。

他に、意識下に太めの末梢ラインや中心静脈ラインを確保するとき、硬膜外麻酔や脊椎麻酔で硬膜外針や脊椎針の刺入前に細めの注射針で痛覚を取るとき、小さな部位の切開・縫合手術などに用いる。

麻酔薬としてはリドカイン、メピバカイン、プロカインを用いる。




●表面麻酔

眼科、耳鼻科、泌尿器科、歯科の手術や気管支鏡、食道鏡による検査時に行うもので、粘膜にリドカインを噴射、塗布する。




●伝達麻酔

末梢神経束の周辺に局所麻酔薬を注入して疼痛刺激の神経伝達をブロックするものである。

ペインクリニックで行う神経ブロックと同義である。

麻酔薬としては、リドカイン、メピバカイン、ロピバカインを用いることが多い。

手術を行う目的部位の知覚を支配する神経を同定してブロックを行う事で、部位を限局した痛覚鈍麻すなわち周術期鎮痛を行う事が可能である。

特に上肢の知覚を支配する腕神経叢に対してブロックを行う腕神経叢ブロックは広く行われており、侵襲の程度が大きくなければ腕神経叢ブロック単独で上肢の手術を行うことも可能である(全身麻酔を必要としない)。

解剖学上の神経走行を捉えるランドマーク法に端を発し、登場した当時は確実性にやや乏しい点もあった。

その後神経を微弱な電流で刺激して筋収縮を確認することで神経局在を把握して行う神経電気刺激法が発達してより普及した。

更に近年は超音波検査装置を利用し神経を同定する超音波ガイド下神経ブロックが行われるようになった。

硬膜外麻酔、脊椎麻酔が利用できない症例(適応外症例:血液の凝固機能の異常がある、もしくは抗凝固薬・抗血小板薬を使用中もしくは使用予定)に対しても活用することが出来、周術期における疼痛管理として麻酔科学領域におけるトピックになっている。





●麻酔薬の分類

エステル型コカイン、プロカイン、クロロプロカイン、テトラカインなどが含まれる。

アレルギーが起こりやすい。血中エステラーゼで分解される。

近年使用頻度は減少している。

アミド型リドカイン、メピバカイン、ジブカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカインなどが含まれる。肝でゆっくりと分解される。

近年主に使用する局所麻酔薬は、表面麻酔はリドカイン、脊髄くも膜下麻酔はブピバカイン、硬膜外麻酔はリドカイン、メピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカイン、伝達麻酔はリドカイン、メピバカイン、ロピバカインである(本邦においては2011年現在、レボブピバカインは硬膜外麻酔および達麻酔に限り保険適応である。2011年4月より伝達麻酔に適応範囲拡大した)。




●作用機序

局所麻酔薬の共通の構造として脂溶性の高い芳香基(ベンゼン環)と水素イオンを得て電離すると水溶性となる三級アミンの双方を持っているのが特徴である。

このため塩基型(B)とイオン型(BH+)の平衡状態にある。

局所麻酔薬の作用対象は電位依存性ナトリウムチャネルであり、電離していない塩基型(B)の状態で細胞膜を通過したのち、イオン型(BH+)に変わり細胞質側から電位依存性ナトリウムチャネルをブロックして作用を発揮する。

そのため、局所麻酔薬のpKa(酸解離定数)が細胞内のpHである7.4に近いほど作用発現が早くなり、また脂溶性が高いほど局所麻酔の作用が強くなる。




●麻酔薬の効き方

一般に細い神経から順に麻酔されていく。

順序としては、血管運動神経、温痛覚、触覚、圧覚、運動の順番である。

臨床現場では麻酔が効いたかの評価は主に温かさ、冷たさを感じるかで行う(コールドサインテスト)。

末梢神経の知覚については疼痛を参照のこと。



●エピネフリン添加

一部の局所麻酔薬はエピネフリン添加で用いる。

これは血管が収縮するため吸収が遅くなり作用時間が長くなったり、局所に麻酔薬がとどまり血中濃度があまりあがらないなどの効果を狙ったものである。

しかし、糖尿病、甲状腺機能亢進症、高血圧といった全身性疾患を持っている場合は相対的禁忌(実際には注意して使用)となっている。

また、指先や耳介など終動脈となっている部位では壊死を生じるため禁忌である。

この部位を麻酔する時は、エピネフリンを添加していないものを用いる。

局所麻酔薬へのエピネフリンの添加は主にリドカインで行われ、添加済みの薬剤も使用されている。




●作用時間

ブピバカインは作用時間が長く、コカイン、プロカインは作用時間が短い。これは上記の説明で明らかである。



●合併症

局所麻酔中毒 局所麻酔薬による中毒症状である。

30分位たってからおこる遅発型と即時型の二種類ある。

即時型ではいきなり痙攣や意識の消失、循環虚脱(ショック)がおこる。

遅発型の場合は段階的発現が特徴的であり、始めは刺激症状とよばれる中枢神経症状であり舌、口のうずきから始まり、めまい、耳鳴、興奮などがおこり、ついで抑制症状と呼ばれる中枢神経症状(意識消失、痙攣)や呼吸停止がおこる。

そのあと心血管系に症状がでて循環虚脱にいたる。

治療は痙攣や呼吸停止、循環虚脱に準じた対症療法、さらに悪化すると心肺蘇生が必要となることもある。

そのため、初期症状である舌、口のうずきなどを見逃してはならない。


リドカインの極量は200mg(もしくは3mg/kg)とされている。

近年頻用されているロピバカインについては一定した見解はないが、おおよそ3-4mg/kgが極量とされている。


ブピバカインは薬剤の普及が始まった当初、投与薬剤として頻用され、硬膜外麻酔や脊椎麻酔だけでなく、伝達麻酔などにも頻用されたが、局所麻酔薬中毒による循環虚脱およびそれに起因する心停止に対して蘇生率が非常に悪い(ブピバカインは強い心血管系毒性を有する)ため、昨今は過去ほど頻繁には使用されなくなった。

なお、脊髄くも膜下麻酔は使用すべき局所麻酔薬が少量で良いため、本邦では現在でもブピバカインが特に頻用されている。

また硬膜外麻酔に使用する場合、ロピバカインに比べて効果発現が速いため、妊婦の無痛分娩に際しての硬膜外投与に現在でも頻用されている(添付文書に記載される常識的な量の投与であれば問題はない)。


近年頻用されるロピバカインはブピバカインに比べて心血管系毒性が低いため、硬膜外麻酔・伝達麻酔に対して比較的高用量でも安全に使用できる(無論上記の極量を超えないように使用することは肝要である)。

近年、局所麻酔薬中毒による循環虚脱、心停止に対しての救命処置に、脂肪乳剤が有効であると報告された。

2007年には英国・アイルランド麻酔科学会から脂肪乳剤に対するガイドラインも発表されており注目を集めている。
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2014年03月19日

副交感神経興奮薬(コリン作動薬)とは

コリン作動薬(こりんさどうやく、英: cholinergic agent)は、コリン作動性線維に作用し、副交感神経を刺激する薬物である。

コリン作動薬には、ムスカリン作用とニコチン作用があるが、副交感神経作用薬としての働きは前者に相当する。

代表的な薬物としては、受容体に直接作用するアセチルコリン、カルバコール、ムスカリンや、コリンエステラーゼを阻害するフィゾスチグミン、ネオスチグミンがある。

逆にコリン作動性線維を抑制する薬物は、抗コリン薬という。


1.コリン作動性神経のシナプス伝達機構

副交感神経系は節前線維、節後線維共にコリン作動性神経であり、アセチルコリン(ACh)を伝達物質として遊離する。

ACh が伝達物質として働く部位 

・ 副交感神経節後線維 − 効果器接合部:M

・ 交感神経節後線維 − 汗腺(エタクリン腺)接合部:M

・ 自律神経節のシナプス(副腎髄質を含む):N(NN)、M

・ 運動神経 − 骨格筋接合部(神経筋接合部):N(NM)

・ 中枢神経系のシナプス(Ex. 錐体外路系、マイネルト核からの神経、中隔−海馬系神経):M、N

・ 神経衝撃により、Ca2+ が神経終末に流入する。

・ シナプス小胞からAChが遊離される。

・ 遊離したAChがシナプス間隙に拡散し、ACh受容体と結合する。

・ シナプス後膜の脱分極により、効果器を興奮させ、生理作用を現す。




2.アセチルコリンの生合成と代謝

アセチルコリン(ACh)はコリン作動性神経終末で、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT:コリンアセチラーゼ)の作用によってコリンとアセチル CoAより生合成され、シナプス小胞に貯蔵され、必要に応じて神経終末からシナプス間隙に遊離される。

シナプス間隙に存在するAChはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンと酢酸に分解されて不活性化される。

コリンは神経終末に再び取り込まれ、AChの生合成に利用される。

この過程を阻害する薬物がヘミコリニウムである。

AChはそのまま神経終末に再取り込みされることはない。



コリンエステラーゼ(ChE)は2種類ある。

・真性ChE(アセチルコリンエステラーゼ)
  主に赤血球、シナプス後膜に存在し、AChのみを分解する。

・偽性(pseude-)ChE(血漿、ブチリル、プソイドコリンエステラーゼ)
  主に肝臓、血漿中に存在し、AChの他、スキサメトニウム、プロカインなどのエステル結合をも分解する。



3.副交感神経興奮薬(コリン作動薬)

副交感神経節後線維の効果器官に興奮的に作用する薬物を、副交感神経興奮薬またはコリン作動薬という。

副交感神経興奮薬

  直接型:ムスカリン受容体に直接興奮的に作用する薬物
  間接型:ChEを阻害し、AChを蓄積させるもの(ChE阻害薬)






・ 直接型副交感神経興奮薬

 (1) コリンエステル類
   AChはコリン作動性神経伝達物質。ムスカリン様作用とニコチン様作用を持つ。

〈ムスカリン様作用〉
  副交感神経支配効果器官に対する作用
  ・血圧下降(血管内皮細胞に作用し、一酸化窒素(NO)を放出させ血管拡張作用を示す。
    血管平滑筋のムスカリン様受容体へは、副交感神経支配が少ない。)
  ・心収縮力、心拍数低下(M2)、気管支収縮、眼内圧低下、
  ・腺分泌促進、消化管収縮、消化管運動促進、縮瞳(瞳孔括約筋の収縮)、尿量増加


〈ニコチン様作用〉
  ・自律神経節に対する作用
  ・神経筋接合部に対する作用
  ・副腎髄質からのエピネフリン遊離作用

AChはムスカリン様作用は強いがニコチン様作用は弱いため、通常ムスカリン様作用のみが見られる。

ニコチン様作用は、ある条件下(ムスカリン受容体遮断後)において、大量投与しなければ現われない。 

また、AChは中枢神経系で生合成され伝達物質として働いているが、4級アンモニウム塩であるため、投与したAChは血液―脳関門は通過せず、中枢作用は認め難い。
 
臨床的には作用が一過性(ChEで速やかに分解されるため)であり、かつ臓器選択性がないため、あまり応用されることはない。
 
〔応用〕麻酔後の腸管麻痺、消化管機能低下による急性胃拡張、円形脱毛症など





(3) コリン作動性アルカロイド

ピロカルピン

・ヤボランジ葉のアルカロイドである。
・強いムスカリン作用と弱いニコチン様作用をもつ。
・分泌腺(汗腺と唾液腺など)と眼に強い作用を示す。
 腺分泌促進作用、縮瞳、眼内圧低下、近視性調節麻痺
〔応用〕縮瞳薬、緑内障


ムスカリン

・ベニテングダケのアルカロイドである。
・AChと同様にコリン作動性神経支配下の効果器官に直接作用して興奮させる。
・自律神経節、骨格筋の終板には作用しない。


ベタネコール

・消化管機能低下による慢性胃炎、腸管麻痺、麻痺性イレウス
・低緊張性膀胱による排尿困難(尿閉)


カルバコール

・緑内障治療と診断・治療を目的とした縮瞳



・ 間接型副交感神経興奮薬(コリンエステラーゼ阻害薬)
 間接型副交感神経興奮薬は、コリンエステラーゼ阻害によりシナプス間隙で ACh を蓄積させ、副交感神経支配器官のムスカリン受容体を間接的に興奮させる。
 同様に自律神経節、神経筋接合部におけるコリンエステラーゼも阻害し、興奮作用を示す。

〈ムスカリン様作用〉
  副交感神経支配効果器官に対する作用
  ・血圧下降、血管拡張
  ・徐脈(M2)、気管支収縮
  ・腺分泌促進、消化管収縮、消化管運動促進、縮瞳(瞳孔括約筋の収縮)、尿量増加

〈ニコチン様作用〉
  ・最初、骨格筋の攣縮や神経節伝達の増強、後に、脱分極性阻害薬として働き、神経伝達
   を抑制し、筋力低下を起こす。

〈中枢作用〉
  ・脳内ムスカリン様受容体に作用し、不安、振戦、運動失調、言語障害、錯乱、幻覚が現れ、昏睡、痙攣、死に至ることがある。

〈臨床応用〉
  ・緑内障、麻痺性イレウス、膀胱アトニー、重症筋無力症の診断と治療

2014年03月16日

シナプスとは

シナプスとは


シナプス(Synapse)は、神経細胞間あるいは筋繊維(筋線維)、ないし神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造である。

化学シナプス(小胞シナプス)と電気シナプス(無小胞シナプス)、および両者が混在する混合シナプスに分類される。

シグナルを伝える方の細胞をシナプス前細胞、伝えられる方の細胞をシナプス後細胞という。


●化学シナプス

化学シナプスとは、細胞間に神経伝達物質が放出され、それが受容体に結合することによって細胞間の情報伝達が行われるシナプスのことを指す。

化学シナプスは電気シナプスより広範に見られ、一般にシナプスとだけ言われるときはこちらを指すことが多い。


●構造と機序

化学シナプスの基本的構造は、神経細胞の軸索の先端が他の細胞(神経細胞の樹状突起や筋線維)と20nm程度の隙間(シナプス間隙)を空けて、シナプス接着分子によって細胞接着している状態である。

シナプス間隙は模式図では強調されて大きな隙間をあけて描かれることが多いが、実際にはかなりべったりと接合している。

情報伝達は一方向に行われ、興奮がシナプスに達するとシナプス小胞が細胞膜に融合しシナプス間隙に神経伝達物質が放出される。

そして拡散した神経伝達物質がシナプス後細胞に存在する受容体に結合することで刺激が伝達されて行く。


化学シナプスにおける典型的な情報伝達機序は以下のように進む。

1.前シナプス細胞の軸索を活動電位が伝わり、末端にある膨らみであるシナプス小頭に到達する。

2.活動電位によりシナプス小頭の膜上に位置する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開く。

3.するとカルシウムイオンがシナプス内に流入し、シナプス小胞が細胞膜に接して神経伝達物質が細胞外に開口放出される。

4.神経伝達物質はシナプス間隙を拡散し、後シナプス細胞の細胞膜上に分布する神経伝達物質受容体に結合する。

5.後シナプス細胞のイオンチャネルが開き、細胞膜内外の電位差が変化する。




●分類

化学シナプスは、興奮性シナプス、抑制性シナプス(シナプス後抑制性とも呼ばれる)、シナプス前抑制性の3つに分けられる。

興奮性シナプスは信号を受け取ると、興奮性シナプス後電位(EPSP; Excitatory PostSynaptic Potential)という信号を発生させる。

EPSPは神経細胞の分極状態が崩れる電位となるため、脱分極と呼ばれる。


抑制性シナプスは信号を受け取ると、抑制性シナプス後電位(IPSP; Inhibitory PostSynaptic Potential)という信号を発生させる。

IPSPは神経細胞の分極状態が強化される電位となるため、過分極と呼ばれる。

シナプス前抑制性は、興奮性シナプスが起こす興奮性シナプス後電位(EPSP)を減少させる働きを持つ。



●可塑性

シナプスの活動状態などによってシナプスの伝達効率が変化するシナプス可塑性は、記憶や学習に重要な役割を持つと考えられている。

シナプス前細胞とシナプス後細胞がともに高頻度で連続発火すると、持続的なEPSPによりシナプスの伝達効率が増加する。

これを長期増強(LTP; Long Term Potentiation)という。

また、低頻度の発火や、抑制性シナプス後細胞の連続発火によるIPSPの持続によって、シナプスの伝達効率が低下する現象を長期抑圧(LTD; Long Term Depression)という。

近年では、シナプス前細胞とシナプス後細胞の発火時間差のみによっても結合強度に変化が見られることが分かっている。

これをスパイクタイミング依存シナプス可塑性(STDP; Spike Timing Dependent Plasticity)という。

また、一旦LTPやLTDを起こしたシナプスに対して適切な刺激を与えると、そのLTPやLTDが消失する事も知られており、それぞれ脱増強 (Depotentiation)、脱抑圧 (Dedepression) などと呼ばれる。





●電気シナプス

電気シナプスとは、細胞間がイオンなどを通過させる分子で接着され、細胞間に直接イオン電流が流れることによって細胞間のシグナル伝達が行われるシナプスのことを指す。

網膜の神経細胞間や心筋の筋繊維間などで広範に見られる。

化学シナプスのように方向づけられた伝達はできないが、それよりも高速な伝達が行われ、多くの細胞が協調して動作する現象を引き起こす。

電気シナプスは無脊椎動物の神経系では一般的にみられるが、長らく脊椎動物の中枢神経系では見出されておらず、脊椎動物の脳での神経伝達は化学シナプスのみによるものと考えられていた。

後になって海馬や大脳皮質の抑制性介在神経細胞の樹状突起間で発見され、重要な伝達手段となっていることが見出された。



●構造と機序

電気シナプスは一般に、コネクソンというタンパク質6量体が2つの細胞の細胞膜を貫通し、ギャップ結合と呼ばれる細胞間結合を形成している構造を持つ。

コネクソンはコネキシンというタンパク質が六角形に配列した6量体構造で、中央に小孔が存在する。

この小孔はカルシウムイオン濃度によってコネクソンが変形することで開閉する。

小孔が開いているときには分子量が1000程度以下の分子を通過させ、濃度勾配圧などによって拡散する。

化学シナプスが数十 nm の間隔を持つのに対して、電気シナプスではコネクソンが両細胞膜の間隔を数 nm まで接近させており、極めて近接している。



●形成

発生過程でのシナプスの形成は、伸長する軸索の先端に存在する成長円錐が標的に到達した時に開始する(軸索誘導、シナプス形成、神経回路形成)。



posted by ホーライ at 06:04| Comment(0) | TrackBack(0) | シナプス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする