【管理・治療】
ガイドラインに定められた期間を食事療法や運動療法を行い、それでも140/90mmHgを超えている場合は降圧薬による薬物治療を開始する。
近年は大規模臨床試験がいくつも出そろい、高血圧治療指針(ガイドライン)では科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。
日本では依然として主治医の裁量ではあるが、その裁量を欧米の医療に即している医師と、上記のうちいくつかを改変した日本独自の考え方をもつ医師がいる(こちらのほうが多い)。
日本独自の考え方としては、Ca受容体拮抗薬は副作用が少なく血圧を大きく下げるため、多くの場合で有用である。
エビデンスが豊富で、危険因子として特に比重の高い脳出血は、同剤の開発前後で明らかに減少している。
虚血性心疾患においても、日本人では冠攣縮型狭心症の関与が大きく、Ca受容体拮抗薬が有効である。
降圧利尿薬は廉価であるが、耐糖能の悪化や尿酸値上昇、低カリウム血症といった副作用により、敬遠する医師が多かった。
しかし多くの臨床試験によってACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などの最近の高価な降圧薬と同等か、それ以上の脳卒中、心筋梗塞予防、心不全改善、腎保護効果が明らかになっており、最近見直され処方する医師が増えている(例:インダパミドの項参照)。
日本の医療は国民皆保険でありコストを考える必要はあまりないため、たとえリスクの低い患者であっても最初から高価で切れ味の良いACE阻害薬やAII拮抗薬から始めても良いが、降圧利尿薬の選択をいつも考慮する。
【高血圧治療薬】
高血圧治療薬(こうけつあつちりょうやく、英: Anti-hypertensive)は、医薬品の分類の一つであり、何らかの原因で血圧が正常範囲から持続的に逸脱している場合(いわゆる高血圧)、具体的には収縮期血圧(最高)が140mmHg以上あるいは拡張期血圧(最低)が90mmHg以上の場合に、その血圧を低下させる目的で用いられる治療薬であるが、この基準値は患者の年齢や糖尿病などの基礎疾患の有無により異なる。
また、家庭血圧と診療室血圧の値がそれぞれ異なる値を示すことが東北大学の今井らによって行われた大迫研究により明らかにされており、ガイドラインにおいても考慮されている。
日本の高血圧人口は4000万人に及ぶとも言われ、もはや国民的な疾患であると言える。
高血圧は生活習慣病の一つに位置づけられ、自覚症状はほとんど認められないものの、血管内皮の障害を起因として動脈硬化症を発症する原因となり、さらにそこから虚血性心疾患や脳卒中など種々の合併症が引き起こされることから問題となる。
高血圧の最終的な治療目的は脳卒中や心不全などの二次的疾患を予防し、生命予後を改善することにある。
高血圧の発症には食生活や喫煙などの生活習慣が大きく関与することから、基本的にはこれらを改善することによる治療(非薬物療法)が試みられるが、目標値が達成不可能である場合には薬物治療が行われることになる。
血圧のコントロールは自律神経系やレニン-アンジオテンシン系(RA系)をはじめとした液性因子などによって行われており、現在発売されている降圧薬は主にこれらの機構をターゲットとしている。
【治療薬選択の大まかな考え方】
アドヒアランス向上のため原則としては1日1回投与のものを選ぶ。
降圧薬の投与量は低用量から開始する。
低用量から高用量への増加よりもシナジーを期待して併用療法を行った方が効果が高いと考えられている。
II度以上(160/100mmHg以上)の高血圧では最初から併用療法を考慮する。
併用法としてはRA系抑制薬とCa拮抗薬、RA系抑制薬と利尿薬、Ca拮抗薬と利尿薬、βブロッカーとCa拮抗薬などがあげられる。
最初に投与した降圧薬で降圧効果が得られなければ作用機序の異なる降圧薬に変更する。
高血圧の薬物治療は通常、単剤あるいは低用量の2剤から開始され、降圧作用が不十分な場合には用量の増大か多剤への変更、異なる作用機序を持つ降圧薬との併用療法などが行われる。
また、一概に高血圧治療薬といっても多くの種類が存在し、これらの作用機序・薬効・薬価は様々である。
高血圧の初期薬物治療においてどのような薬物を用いるかは大規模な臨床試験の結果やガイドラインに沿って行われる。
高血圧の診療ガイドラインはWHO/ISH(国際高血圧学会)によるものと米国のJNC7が国際的に主流であり、JNC7ではチアジド系利尿薬が他のグループと比較して安価で大きな治療効果が得られることから、その使用が推奨されているが、治療薬は個々の患者の病歴や合併症の有無などを考慮した上で選択されるべきである。
日本においても日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインが2004年に作成されており(JSH2004)、2009年1月には最新版(JSH2009)が発行された。
■■■ 以下の文章の基になるデータの一部は、今は、疑わしい ■■■
国際ガイドラインは欧米での臨床試験をもとに作成されているため、日本人の高血圧治療に当てはめるには不向きな点もあるが、新ガイドラインであるJSH2009ではCASE-J試験やJIKEI-Heart試験、JATOS試験等の国内の臨床試験のデータがエビデンスとして盛り込まれた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
なお、JSH2004からJSH2009への変更点は以下のような点である。
(1)α遮断薬の主要降圧薬からの除外。
(2)血圧値に加えて心血管障害、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)などの危険因子を考慮して3群にリスク層別化を行い、治療方針を決定。
(3)降圧目標の設定。
また、高血圧の患者では薬物を長期に渡って服用することになり、降圧薬の併用に加えて合併症に対する治療薬も数多く処方され結果として10種類を超えるような薬剤を服用している場合も少なくない。
ADVANCE試験により合剤の有用性が示され、日本においてもARBと利尿薬の合剤が認可されている。
このような複雑な処方を受けている患者に対して合剤を用い、少しでも薬の種類を少なくすることがアドヒアランスの改善に結びつくと考えられている。
【治療薬の種類】
●利尿薬
詳細は「利尿薬」を参照
利尿薬(利尿降圧薬)は尿量を増加させるための医薬品である。
そもそも尿とは血液中の不純物を除去するための機構であり、生体内で産生される老廃物は腎臓の糸球体で濾過されたのち尿中に排出される。
一方、尿は体外への水分排泄の役割も担っている。
尿量が少なく循環血液量が多い状態では血圧が高くなるため、利尿薬による水分排泄は降圧効果を示す。
糸球体濾過を受けた血液由来の水分は尿細管へと移行する。
尿細管は糸球体に近い方から近位尿細管、ヘンレ係蹄(下行脚および上行脚)、遠位尿細管、集合管と呼ばれ、膀胱へと流れ込む。
糸球体濾過を受けた水分(原尿)の9割はこれらの尿細管壁から回収されることが知られている。
これを再吸収と呼び、再吸収を免れた水分のみが膀胱へと流れつき、尿として排泄される。
尿の再吸収はまず尿細管壁に存在するイオン交換体によってナトリウムイオン(Na+)の再吸収によって尿細管内外に浸透圧差が作られることにより始まる。
この浸透圧差を補正するためにNa+に付随して水も尿細管外へ移動することになり、結果として水分の再吸収が行われる。
現在発売されている利尿薬はこれらのイオン交換体の機能を調節することにより水分の再吸収を抑制し、尿量を増加させるものである。
●サイアザイド系利尿薬(チアジド系利尿薬)
サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管においてNa+およびCl-の再吸収を阻害する。
上記に示した通りチアジド系利尿薬はアメリカのガイドライン(JNC7)においてその使用が推奨されており、中程度の利尿作用を有する。
併用薬としての低用量のサイアザイド系利尿薬の使用は有効であるということがALLHAT試験で明らかになっている。(ただしALLHATで用いられたエビデンスのあるサイアザイド系利尿薬はクロルタリドン)この場合は利尿薬としての使用量よりも少ないことに注意が必要である。
サイアザイド系利尿薬は添付文章上は腎機能障害(Cr≧2.0)、低カリウム血症、痛風が認められる場合は使用禁忌であり、妊娠、耐糖能機能障害の場合は慎重投与ということになっている。
しかしこれは利尿薬として使用する場合であり、降圧薬としてサイアザイド系を用いる場合は利尿作用を期待する場合の1/4〜1/2量の併用となるため低カリウム血症、高尿酸血症、耐糖能障害といった不利益は最小限に抑えることができるとされている。
それでも障害が重度の場合はカリウム保持性利尿薬やロサルタン、シルニジピン、アロプリノールを併用する場合もある。
ただ、作用機序の問題からCr≧2.0で降圧効果、利尿効果ともに無効になってしまうことは変わりない。
低用量サイアザイド系利尿薬は短期的には循環血症量を減少させるが長期的には末梢血管抵抗を低下させることで降圧を行うと考えられている。
ADVANCE studyではACEとサイアザイド系利尿薬の併用薬と偽薬を比較しアドビアランスは同等であったため、利尿作用による不便さは長期的には問題とならないことが示唆されている。
代謝面の不利益から単純に高血圧治療を行うときにはβブロッカーとの併用は推奨されていない。
また腎障害時(Cr≧2.0)で利尿薬を使用する場合はループ利尿薬となるが、利尿作用が強い割に降圧作用は弱い傾向がある。
但し、うっ血性心不全が認められるときはうっ血の解除には有効であるためループ利尿薬を積極的に使用する。
プレミネントなどARBとサイアザイド系の利尿薬との合剤も販売されている
トリクロルメチアジド(Trichlormethiazide フルイトランなど、一日1〜2mg)
ヒドロクロロチアジド(Hydrochlorothiazide ダイクロライドなど、一日12.5〜25mg)
サイアザイド(チアジド)類似利尿薬
メフルシド(Mefruside)
インダパミド(Indapamide, ナトリックス)…最もエビデンスの報告されている利尿薬
メチクラン(Meticrane)
クロルタリドン(Chlortalidone)
トリパミド(Tripamide)
●ループ利尿薬
ループ利尿薬は強力な利尿作用を有しているが、降圧作用はそれほど強くない。
ヘンレ係蹄上行脚においてNa+の再吸収に関与しているNa+/K+/2Cl-共輸送系を阻害する。
これにより尿細管内外の浸透圧差が緩和され、下行脚における水の再吸収が抑制される。
フロセミド(Furosemide,ラシックス)
トラセミド (Torasemide,ルプラック)
ブメタニド(Bumetanide)
エタクリン酸(Ethacrynic Acid)
(続く)