消化性潰瘍(しょうかせいかいよう、英:Peptic ulcer)とは主に胃酸が要因となって生じる潰瘍のことである。
●消化性潰瘍の分類
潰瘍の生じる部位別に旧来通り以下の通りに称される。
胃潰瘍(Gastric ulcer or Stomach ulcer)
十二指腸潰瘍(Duodenal ulcer)
食道潰瘍(esophageal ulcer)
デュラフォイ潰瘍(仏:Ulcère de Dieulafoy)
比較的小さな潰瘍であるが大出血を生じる潰瘍として1898年にフランスの外科医Paul Georges Dieulafoyが報告したもの。
粘膜浅層の血管の走行上部にちょうど潰瘍が生じることで、小さく浅い潰瘍でも血管破綻を生じ大出血する潰瘍。
急性胃粘膜病変(AGML:acute gastric mucosal lesion)
急性十二指腸粘膜病変(ADML:acute duodenal mucosal lesion)
●消化性潰瘍の成因
胃潰瘍
通常は強酸である胃酸の分泌に対し、胃内の粘膜は粘膜保護が作用し攻撃因子・防御因子のバランスが保たれている。
胃潰瘍は主に、粘膜保護作用の低下によって防御因子が低下することで生じる。
十二指腸潰瘍
ヘリコバクター・ピロリ(H.Pylori)保菌者が多く、比較的若年者に多い。
H.Pyloriが胃前庭部に潜伏し始め、持続的にガストリン分泌刺激が促され胃酸分泌過多を生じることによって生じるとされている。
十二指腸潰瘍は食前・空腹時に痛みが増悪することが知られているが、摂食刺激によってセクレチンが分泌されガストリン分泌が抑制され胃酸分泌が少なくなるためと考えられている。
●消化性潰瘍の要因
リスクファクターは主に胃粘膜保護の減少である防御因子の低下を助長するものであり、以下が知られている。
飲酒
喫煙
塩分
熱いもの
ストレス
コーヒー(カフェイン)
NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛薬 Non steroidal anti-inflammatory drugs)
NSAIDsは鎮痛薬や抗血小板剤として広く用いられCOX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を阻害する作用を有し、このうちCOX-1が阻害されることで胃粘膜防御因子のPGE2(プロスタグランジン)産生低下が生じ潰瘍を生じやすいとされている。
COX-2のみを選択的に阻害するNSAIDsでは比較的生じにくい。
ステロイド
旧来よりステロイド(一般に糖質コルチコイド製剤)使用にて消化性潰瘍発症が高くなると言われていたが、近年のメタアナリシス報告で潰瘍発症の有意差は無いことが指摘されステロイドは消化性潰瘍のリスクファクターでは無いことが証明されてきた。
●消化性潰瘍の臨床像
胃潰瘍・十二指腸潰瘍共に以下の症状が基本となって生じてくる。
上腹部痛・心窩部痛(いわゆる胃の痛み)
胃潰瘍では食後に腹痛が増悪することが多く、十二指腸潰瘍では食前・空腹時に増悪することが多いとされている。
しかし、実際には必ずしもそうではないこともある。
黒色便・吐血
胃・十二指腸内に出血した血液が逆流して嘔吐すれば「吐血」ないし酸化を受け黒色に変色した「コーヒー残渣様嘔吐」となって生じ、そのまま便となって出てくる場合は血液が酸化されて黒色となり「黒色の便」として生じてくる。
ただ、食道静脈瘤・Mallory-Weiss症候群等の他の上部消化管出血でも同様の症状を呈する。
また大腸や小腸からの下部消化管からの出血の場合、これを受けないで排出されるため「赤い便・血便」として生じてくる。
腹部の激痛・筋性防御(腹膜刺激症状)
出血していても胃潰瘍・十二指腸潰瘍の腹痛はそこまで強くなく強い腹痛がある場合は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の穿孔による腹膜刺激症状である場合が多い。
●検査
血液検査
出血があれば貧血(Hb・RBC低下)が認められ、持続消耗性出血による小球性低色素性貧血(MCV低下)を呈してくる場合が多い。
大量出血である場合には貧血があっても、MCV低下がみられないこともある。
また活動期の出血の場合、胃内に蛋白成分が漏出し蛋白異化による尿素窒素(BUN)が高くなることでBUN/Cr比の上昇が認められ臨床的に出血兆候の指標として用いられる。
内視鏡検査
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の診断・治療において上部消化管内視鏡が基本となってくる。
他の消化管病変の精査・鑑別も含めて、一般的に広く行われる。同時に治療も行える利点がある。
消化管造影検査
いわゆる「胃透視(MDL)」は旧来より広く行われている。
所見から消化性単純潰瘍が疑わしい場合に、精査として行われることはほとんどなく、上記の内視鏡検査が行われる。
悪性腫瘍に付随する潰瘍病変である場合には、病変の位置や大きさが内視鏡検査よりも客観的に描出できるため、内視鏡検査の後であっても行われることが多い。