アルツハイマー型認知症(アルツハイマーがたにんちしょう、Alzheimer's disease、AD)は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。
日本では、認知症のうちでも脳血管性認知症、レビー小体病と並んで最も多いタイプである。
アルツハイマー病(AD)には、以下の2つのタイプがある。
●家族性アルツハイマー病(Familial AD、FAD)
完全な常染色体優性遺伝を示し、遺伝性アルツハイマー病ともよばれる。
●アルツハイマー型認知症(dementia of Alzheimer type、DAT)
アルツハイマー病の中でほとんどを占める。
老年期(60歳以上)に発症するもの。
●病理
アルツハイマー病では、以下が特徴とされる。
・びまん性の脳萎縮
・大脳皮質に老人斑(アミロイドベータ:Aβの沈着像)と、アルツハイマー型神経原線維変化(neurofibrillary tangle:NFT)の広範囲出現
FADの原因となるアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異、プレセニリン遺伝子変異のいずれもAβの産生亢進を誘導することが判明している。
●症状
症状は進行する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能や問題解決能力の障害など)であり、生活に支障が出てくる。
重症度が増し、高度になると摂食や着替え、意思疎通などもできなくなり最終的には寝たきりになる。
階段状に進行する(すなわち、ある時点を境にはっきりと症状が悪化する)脳血管性認知症と異なり、徐々に進行する点が特徴的。
症状経過の途中で、被害妄想や幻覚(とくに幻視)が出現する場合もある。
暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動(いわゆる周辺症状)が見られることもあり、介護上大きな困難を伴うため、医療機関受診の最大の契機となる。
●薬物療法
アルツハイマー型認知症に対しては近年治療薬の開発によって薬物治療が主に行われるようになってきたが、現在のところ根本的治療薬は見つかっていない。
現在開発中の薬現在開発研究段階ではあるが根本治療薬として以下が臨床研究中である。
・Aβ(アミロイドベータ)ワクチン療法
・抗Aβモノクローナル抗体療法
現在発売中の薬現在使用されているアルツハイマー型認知症の治療薬は大きく分けて2種類に分かれる。
・コリンエステラーゼ阻害薬
主にマイネルト基底核から投射される脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの活性がアルツハイマー型認知症では低下していることが分かっている。
そのため、その分解を促進するコリンエステラーゼを阻害するコリンエステラーゼ阻害薬が各国で承認を受け治療に使用されている。
現在日本では以下の3種類の薬剤が利用できる。
・ドネペジル(Donepezil アリセプト:Aricept) 現在重症のアルツハイマー型認知症で使用できるのはドネペジルのみである。
用量は1日あたり3-10mg(海外では23mg/日の用法もある)である。
コリンエステラーゼ阻害薬に共通して最も多い副作用である消化管症状(吐き気・嘔吐・下痢)のため3mgから開始することが推奨されている。
その他よく見られる副作用としては徐脈などが見られる。
ドネペジルの効果についてはMMSEで1-2点程度であり劇的な改善が認められないものの、使用開始時に効果がなかった患者でも12ヶ月後に認知機能の低下が抑えられたとする報告があり、一定期間進行を遅らせることができると考えられている。
ガランタミン(Galantamine レミニール:Reminyl)
リバスチグミン(Rivastigmine リバスタッチパッチ イクセロンパッチ) 分子量が小さいため経皮吸収が可能であり、飲み薬ではなく貼り薬として使用することが出来る。
このため比較的消化管への副作用が少ない。
アセチルコリンエステラーゼだけでなくブチリルコリンエステラーゼも阻害するため、従来のコリンエステラーゼ阻害薬よりも効果が高いとの報告がある。
NMDA阻害薬
メマンチン(Memantine メマリー:Memary)
現在のところ軽症のアルツハイマー型認知症に対して適応が通っていないものの、海外の研究でドネペジルとメマンチン併用した群では自宅からナーシングホームへの入所率がドネペジル単独使用または薬剤非使用群に対し優位に低下することが分かっている。
メマンチンで最も多い副作用はめまいである。
●●● ドネペジル ●●●
ドネペジル (donepezil) は、アルツハイマー型認知症(痴呆)進行抑制剤の一種。エーザイの杉本八郎らにより開発された。
ドネペジル塩酸塩は、アリセプトという商品名でエーザイから発売され、かつては海外市場おいてはファイザーとの提携により、同名(Aricept)で販売されている。
「新薬開発におき、欧米企業に後れをとる」と批判されがちな日本の製薬業界であるが、アリセプトは日本国外市場でも市場占有率8割以上を誇る。
●適用・効能
アルツハイマー型認知症の認知症症状の進行抑制に用いられる。
アルツハイマー型認知症の早期に使用することによって認知機能の一時的な改善をもたらす。
アルツハイマー型認知症の病態を治療したり、最終的に認知症が悪化することを防ぐ薬剤ではない。
投与12週以降で臨床認知機能評価尺度の点数を改善する。
しかし、数年以上の長期にわたる投与試験は行われておらず、現時点で長期投与の有効性についてのデータはない。
これは、投薬対象人口が高齢であり、ランダムサンプルを用いた縦断的研究データ収集が難航しているからである。
●作用機序
アルツハイマー型認知症では、脳内コリン作動性神経系の障害が認められる。
本薬は、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害することにより脳内アセチルコリン量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する。
以上