●血栓症について(2)
●塞栓化
血栓症の起こった部位に細菌感染が存在すると、 血栓が破綻して感染物質が体内循環をめぐり(膿血症、敗血症性塞栓)、あらゆる場所に転移性膿瘍を形成する。
感染が存在しなくても血栓は形成された場所から分離して循環系にのり、塞栓(血栓性塞栓、アテローム塞栓)となって最終的にどこかの血管を閉塞して、そこから先の部分は緊急に治療しなければ(酸素と栄養の供給が絶たれるため)組織の壊死(梗塞)を起こすことになる。
この血管閉塞が冠動脈で起これば、心筋の虚血が起こりやすくなり、そのため心筋細胞が酸欠状態となって正常に機能しなくなる。
この酸素の欠乏は心筋梗塞につながる。
しかしほとんどの血栓は線維組織に分解される(線溶系)ため、血栓化した血管は徐々に再灌流することになる。
●分類
静脈血栓症
静脈血栓症は、静脈内での血栓形成が起こる疾患である。以下のように分類される:
深部静脈血栓症
深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis, DVT)は深部静脈(深静脈とも、筋膜より下部を走行する静脈)の内部で血栓が形成される。
大腿静脈などの下肢の静脈が好発部位である。深部静脈内での血栓形成には、血流の速さ・血液の濃度(ヘマトクリット値)・血管壁の状態の3つの因子が重要である。
DVTの古典的な徴候は、発症部位の腫脹・疼痛・発赤である。
色調は病態によって異なり、発赤のほかにも白色・青色(有痛性青股腫)もある。
肺血栓塞栓症
血栓(凝血塊)ははじめに形成された部位から一部または全部が分離し、血流にのって移動することがある。
この血栓は最終的に身体の別の場所に落ち着くことになり、これを塞栓と呼ぶ。
静脈内で形成された血栓が、肺(の一部)に塞栓を形成するものが肺塞栓症(肺血栓塞栓症)である。
肺静脈(の一部)が完全閉塞を起こすとそれより末梢の肺組織が壊死を起こす。
これが肺梗塞である。肺塞栓症・肺梗塞は、その程度によっては緊急治療が必要であり、それが行われても予後が極めて悪い疾患である。
血栓の形成される部位(原因疾患)としては、深部静脈が最も多いといわれる。
主な危険因子としては、長時間の不動状態以外にも周産期(出産前、出産後)、手術後、悪性腫瘍の存在などがあげられる[7]。
動脈血栓症
動脈血栓症は、動脈内で血栓形成が起きる疾患である。
ほとんどの例では、動脈血栓はアテローム(粥腫、じゅくしゅ)の破綻に伴って形成されるため、アテローム血栓症ともいわれる。
動脈血栓症のもうひとつの主な原因として、心房細動による血流の阻害がある。
さらに単相式電気的除細動器の使用は、特に48時間以上持続している心房細動に対しては血栓塞栓症発症の大きなリスクをもたらすことはよく知られており、抗凝固療法を受けていない患者の約5%に発症する。.
除細動後の血栓塞栓症が起きるメカニズムや病因については、はっきりとはわかっていない。
動脈血栓症は塞栓形成することがあり、動脈塞栓症の主要な原因であり、全身のほぼどの臓器においても梗塞を起こしうる。
脳梗塞
脳卒中は脳への血液供給が阻害されることによって脳の機能が急激に傷害される疾患であり、虚血、血栓、塞栓および出血によって起こりうる。
血栓性脳卒中では、通常血栓は動脈硬化(アテローム性硬化)による血管の粥状隆起(粥腫、プラーク)周囲に形成される。
動脈の閉塞は徐々に起こるため、血栓性脳卒中の症状出現は(他のタイプに比べて)比較的緩やかである。
血栓性脳卒中は内頚動脈や椎骨動脈、ウィリス動脈輪の病変である大血管病と、ウィリス動脈輪の枝(branch、レンズ核線条体動脈など)などのより小さな血管の病変である小血管病(BAD, Branch atheromatous disease)に分けられる。
心筋梗塞
心筋梗塞は心筋が虚血により組織壊死をきたす疾患であり、通常冠動脈の血栓による閉塞が原因となる。
心筋梗塞は緊急的な医療介入が行われなければ、速やかに致死的となることのある疾患である。
発症後12時間以内に診断がつけば、再灌流療法が施行される。