●ステロイド系抗炎症薬の副作用
副作用として過剰な免疫抑制作用が発現することによる感染症、クッシング症候群、ネガティブフィードバックとして副腎皮質機能不全、糖新生の促進による糖尿病、骨量の減少に伴う骨粗鬆症、消化管粘膜におけるプロスタグランジン産生抑制による消化性潰瘍などが知られている。
しかし、気管支喘息においてステロイドを吸入で用いた場合にはステロイド剤は呼吸器系の組織に局所的に作用し、血中移行する量が少ないため副作用が少ない。
●減量
ステロイド系抗炎症薬の減量に関して述べる。
ステロイド大量療法を長期間続けることは副作用のため難しく、原疾患のコントロールができ次第、原疾患が再燃しない程度、そして離脱症候群が起らないように漸減していくのが一般的である。
早い離脱はリバウンドを引き起こすため慎重に行う必要がある。
減量は各疾患のパラメータのモニタリングを行いながらする。
減量の目標はステロイドの投与の中止よりもPSL7.5mg/day以下の少量投与による維持であることが多く、疾患の活動性によって減量速度はかなり異なるため注意が必要である。
また、原疾患のコントロールにステロイドが不可欠ではない場合は、離脱症候群のみを防ぐように減量を行うためこの限りではない。
減量中の再燃は2倍量に戻って再スタートとする。
ステロイド離脱の時は、プレドニンのような半減期が短い製剤を用いて漸減する方が良い。
特に問題がない場合はPSL30mg/dayまでならば5mg/1week、PSL15〜30mg/dayまでならば5mg/2week、PSL10〜15mg/dayまでならば1mg/2week、10mg以下ならば1mg/4weekといった処方も知られている。
●血管炎のステロイド減量
血管炎に関しては欧州血管炎研究グループ(EUVAS)がPEXIVAS試験という臨床治験を2010年より行なっている。
対象はウェゲナー肉芽腫症と顕微鏡的多発血管炎であり、ステロイドパルス療法とシクロホスファミドが併用される。
この試験によって血管炎におけるPSLの標準的な投与法が決定される可能性がある。
●ステロイド系抗炎症薬の離脱症状
離脱症候群といわれる副腎不全はPSL20mg/day以下の投与で急速に減量した際に起りやすいとされている。
突然の内服中止、手術時、少量服薬時の減量には特に注意が必要である。
生理的糖質コルチコイドの分泌量はPSL換算で2.5〜5mg程度といわれている。
この量以上の投与が続くと副腎の機能の低下が徐々にあらわれる。
目安としてはPSL換算で7.5mg以上、3週間以上の投与を受けた場合は内因性副腎機能の抑制が起こっていると考える。
そしてPSL10mg/day以上を半年間投与を受けると殆どの場合、ストレス時の糖質コルチコイドの追加分泌は不可能となる。
そのため、副腎抑制となっている場合の感染症などのストレスを引き金に副腎不全は生じることもある。
PSL5mg/day前後に減量するときに副腎不全を疑う症状が出現することが多く、その場合、PSLを0.5〜1.0mg/2weekといったゆっくりとしたペースで減量し、さらに生理的な分泌に合わせ、朝の内服量を多くするといった微調整が必要となる。
副腎不全の発見は減量の服薬歴やステロイド投与中にもかかわらず好酸球が高いなどが参考になる。
●急性副腎不全
突然の内服中止などで起る場合が多い。
意識障害や痙攣とともに血圧の低下が起り、ショック症状を示す。
輸液や昇圧剤の反応に乏しくステロイドを投与しないと改善しない。
Na貯留作用(鉱質コルチコイド作用)もあるハイドロコルチゾンを100mg〜200mgを6時間毎に投与するのが一般的である。
●慢性副腎不全
だるさ、全身倦怠感などが主症状となり、特異的な所見にかける。
食欲不振、嘔気、便秘など消化器症状、やるきのなさ、うつ状態といった精神症状を訴える場合もある。
感染症などの重大なストレスがなければステロイド増量で対処できる。
●ステロイドカバー
手術時に行うことがある。
ステロイドカバーは手術成績にも影響がないとされている。
小手術ならば術前にハイドロコルチゾン100mgの静注する。
大手術ならばハイドロコルチゾン100mgを4から6時間毎に静注し経口摂取可能となるまで静注を続ける。
数日で減量し、元の服薬量に戻すのが一般的である。
高血圧が認められる場合はNa貯留作用の少ないデキサメサゾン静注とし、繰り返す場合は8時間毎にする。
これらは手術の侵襲に合わせて増減される。
●諸注意
外部からのステロイドホルモン投与(特に内服ステロイド薬)で副腎皮質のステロイドホルモン分泌能が抑制され、副腎皮質が萎縮・機能低下する。
これにより、特に急激な投与中止後に体内のステロイドホルモン不足による諸症状が見られることがある。
これをステロイド離脱症候群とよばれ、強い倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下などの症状が起こる。
このためステロイドの離脱に際しては、急激な中止・減量を避け、症状を考慮しながら少量ずつ段階的に減量するなどの細やかな治療計画が必要である。
自己判断で急激に服用を中止することは危険を伴うので、医師の指示のもとに行うことが大切である。
上記の様な多彩かつ重篤な副作用があるが、効果も高いので日本の医療現場では広く処方・販売される。
しかし市場には作用の強弱や体内動態の異なるステロイド剤は多数開発されているので、症状や副作用の程度により適切な薬剤を選択することも可能である。
副作用を回避する為にも、主治医は薬の性質や予想される副作用を前もって患者に伝え、患者は投薬により生じた症状は適切に主治医に伝え治療に反映させるといった対応(インフォームド・コンセント)が重要な薬剤である。
以上
ラベル:抗炎症薬
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